ITを無視しては企業は成長できない――。2015年の今、この言葉に異を唱える人はいないだろう。スマートフォンの普及により膨大なデータが日々生み出され、それを分析するIT基盤の値段も劇的に下がった。あらゆる企業が、ビッグデータの活用と向き合わざるを得ない時代になった。

 野村総合研究所の鈴木良介氏は「ワーキンググループ」「プライバシー」「ROI(投資対効果)」という3つの単語が登場したら、その企業のビッグデータ活用に黄信号が灯ると説く。日本企業のデータ活用はどのような壁に直面しているのか、話を聞いた。

(聞き手は小笠原 啓)

鈴木 良介(すずき・りょうすけ)氏
鈴木 良介(すずき・りょうすけ)氏
野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部所属主任コンサルタント
情報・通信業界にかかわる市場調査、コンサルティング、政策立案支援に従事。近年では、ビッグデータの活用について検討をしている。近著に『ビッグデータ・ビジネス』(日経文庫、2012年10月)。科学技術振興機構CRESTビッグデータ応用領域領域アドバイザー(2013年6月~)。

IT業界に「ビッグデータ」という言葉が登場したのは、2010年頃だったと思います。この5年で、日本企業のデータ活用はどのように変わったのでしょうか。

鈴木:かなり積極的になってきたと思います。生み出されるデータ量が増え、それを集めて分析するコストが下がってきました。「データを活用すればウチの商売を高度化できるはずだ」と考える経営者が、年々増えている気がします。何か新しい事業をするには、もはやITは無視できませんから。

 一方で、失敗例も蓄積されています。分類すると、うまくいかないケースでは3つの「NGワード」が登場する確率が高いことが分かりました。ビッグデータ活用に関連し、これらのキーワードを耳にしたら身構えた方がよいでしょう。

1つ目のNGワード「ワーキンググループ」

1つめの「NGワード」は何でしょうか。

鈴木:「ワーキンググループ」です。

 ビッグデータ活用を社長が決断しても、いきなり専任部署を作るのはハードルが高い。そこで浮上するのが各事業部門から兼任の人材を集めて、ワーキンググループを立ち上げる方式です。経営企画と市場調査に長けた人を1人ずつ、販売や製造といった部門からもやり手を招集。そこに情報システム部門から複数の人を加えるというのが典型的でしょうか。

 ですが、これでは話がまとまらない。参加者のバックグラウンドがみな違いますし、持っている専門性も異なります。すると適切なストーリーが作れずに、もめ始めるわけです。

 例えば経営企画部門は、社長などから「データ活用で金儲けをしろ」との指令を受けています。データを収集して営業活動などに応用し、売り上げを高めるといった一連の流れをまず考えます。それに対して、データ分析経験があるという理由で呼ばれている市場調査担当者は、どんな分析手法を使い、その精度はどれほどかという点にしか興味がありません。情報システム部門にとっては、データ分析に使うIT基盤にはどれほどのコストがかかり、いつまでに実装すべきかが課題です。

 こういう議論がワーキンググループの中で散発的に行われ、利害を整理するだけで精一杯になりかねない。社内で誰が音頭を取るのかを決めておかないと、議論が先に進みません。