どんな活動をどれだけするかは自分の思い通りにはならず、実は熱力学法則によって決まっている。仕事の生産性が高いのは「知人が多い人」ではなく、実は「知人の知人」の数が多い人である――。
ウエアラブルセンサから収集した「体の動き」の大量データの解析から、人間の行動や組織の活動に関する新たな知見が次々に発見された。人間の幸福や活気は客観的に計測でき、それが組織の業績に直結することもデータで実証。世界的に注目される研究をリードする日立製作所の矢野和男氏は、ビッグデータと人工知能は人間の勘と経験を増幅し、人間と共に進化するものになると説く。
矢野さんは、人間の体に常時着けられるウエアラブルセンサで膨大なデータを収集し、分析して得られた数々の知見を『データの見えざる手』(草思社)にまとめられました。人間の行動のある部分をビッグデータとして取れるようになったことで、それこそ山のように面白い事実が判明しているわけですね。
私の場合で恐縮ですが、一番驚愕したのは、ホームセンターのお店で顧客単価を上げるためにコンピュータが出してきた仮説の話でした。

矢野:そうですか。
店舗の中で、居場所と体の動きを検知できるセンサを従業員が身に着けて、来店したお客様にも買い物の間だけ身に着けてもらい、毎秒20回ずつひたすらデータを取り続けるわけですが、それを解析した人工知能コンピュータがすごく意外な影響要因をはじき出した。
店内のいくつかの「ある特定の場所」に従業員が「いる」だけで顧客単価が向上するというんですね。そこでの滞在時間を1.7倍にしただけで顧客単価が15%も増えたとか。でもそれがどういう理由なのか言葉ではうまく説明できない。これは、具体的にはどういうことをコンピュータでやっているんですか。
矢野:ごく単純に言うと、1人のお客さんがいくらお金を使うかという売り上げというマクロな量に対して、影響を与えるかもしれない要因はものすごくたくさんあります。そのたくさんの要因の中で、影響がありそうな候補を何千個、何万個と自動で作り出し、かつそれらを絞り込んで有力な候補を見つけてきます。