企業風土改革や組織力強化を図るためのキーワードの1つとして、「健康経営」という言葉への注目が高まっている。経済産業省と東京証券取引所は今年3月、先進企業約30社を「健康経営銘柄」に指定し、公表する予定だ。従業員の健康管理を経営の視点で捉え、戦略的に実践している企業は中長期的に企業価値を高めるとし、株式市場でも評価する。

 「日経ビジネス」2月9日号の特集「善い会社」でも触れたが、光ファイバーなど線材大手のフジクラは2010年度以降、全社的に健康経営に取り組んでいる。同社人事・総務部健康経営推進室の浅野健一郎副室長は「社員の健康増進に対する支援は企業存続のための投資」と話す。

(聞き手は西頭 恒明)

フジクラは光ファイバーなどの線材を扱う製造業。ヘルスケア業界などと違い、本業と「健康」とは直接関係がないように思いますが、なぜ健康経営に力を入れているのですか。

フジクラ人事・総務部健康経営推進室の浅野健一郎副室長
フジクラ人事・総務部健康経営推進室の浅野健一郎副室長
光ファイバーの研究開発などに携わった後、「健康経営」の推進に取り組んでいる。(撮影:北山 宏一、以下同様)

浅野:2009年に中期経営計画の立案プロジェクトを立ち上げたことがきっかけでした。グローバルでの競争が激化している電線業界で生き残っていくには、もっと挑戦する文化や風土を作っていく必要があるという問題意識で社内を見渡した時、「社員に元気がないね」という声が立案メンバーから上がったんです。ちょうどリーマンショック後で、日本経済全体が沈滞していた時期だったせいもあるかもしれません。

 中計でどんな目標を掲げるにしても、社員が心身ともに健康でなければそれは達成できない。そんな考えから、2010年度以降、従業員の健康増進と疾病予防を経営の重要課題と捉え、様々な取り組みをしています。2014年1月には、会社が本気で取り組んでいることをグループ社員全員に再認識してもらうため、「フジクラグループ健康経営宣言」を出しました。

いわゆるメタボ社員が多ければ、それだけ生活習慣病にかかるリスクが高まるし、もし発病したら業務にも影響を及ぼす。会社の目標達成や業績にも響くというわけですね。つまり、単なる福利厚生施策の一環ではないのですね。

浅野:一見、労働安全とか福利厚生が目的と思われるかもしれませんが、そうではありません。労働生産性の向上や新規事業などイノベーション創出を目的に捉えています。ひと言で言えば、「企業存続のための投資」です。「お客様からは感謝され、社会からは高く評価され、社員は活き活きと仕事をしている」というのが、私たちが考えるゴールイメージです。