「スーパーベター」というゲームをご存知だろうか。「Business Week」誌の「注目すべきトップ10・イノベータ―」に選出された経歴を持つゲームデザイナーのジェイン・マクゴニガル氏が開発したもので、50万人近くがプレイしている。ゲームをプレイすることで活性化する脳の状態を、日常生活に持ち込むための試みだ。2015年11月には理論をまとめた自著「スーパーベターになろう! ゲームの科学で作る『強く勇敢な自分』」を上梓。来日したマクゴニガル氏に話を聞いた。

(聞き手は岡部 一詩=日経コンピュータ


ジェイン・マクゴニガル氏
ジェイン・マクゴニガル氏
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ゲームで遊ぶと脳が活性化するとは一体どういうことなのでしょうか。

 ゲームをしているとき、脳の二つの部分が興奮状態になります。一つは、モチベーションや意志の力を司る部分。これが活性化することで、集中力が増した状態になります。もう一つは、学習を司る部分です。ゲームをすると、脳はより早く、より良く学べる状態にあるのです。ゲーマーが持つマインドは非常に前向きなのです。

 最近、ニューヨーク・タイムズから記事を書いてほしいと頼まれました。5回も6回も書き直してくれと言われて嫌になりそうでしたが、人気ゲームの「キャンディークラッシュ」なら5~6回遊ぶなんてたいした数じゃないでしょう。50回トライしてやっとクリアしたこともある。ゲームを遊ぶことで、諦めない精神が宿るのです。

 とはいえ、それはゲームをしている最中のこと。ゲームに慣れている人が必ずしも、ゲーム型思考を使えるわけではありません。ゲーム型の思考を日常生活に持ち込むための仕掛けが「スーパーベター」です。私の5年間の研究に基づいています。

 誰でも簡単に実践できるように設計しています。例えば、書籍(「スーパーベターになろう!」)では、冒頭で四つの“クエスト”を紹介しています。それぞれ、「身体的能力」、「メンタル」、「社会性」、「感情」に関わる能力を高めることに対応しています。

 クエスト1では本を閉じて、「立ち上がって三歩歩く」というミッションを設定しています。身体的能力を向上させるためのものです。クエスト4は、「誰かと六秒以上握手する、もしくは手をつなぐ」あるいは「知り合いに手短な感謝のメールやフェイスブックのメッセージなどを送る」という内容です。社会的サポートを得られやすくするためです。

 これだけで、いきなり四つの能力が高あるわけではありません。テレビゲームでも、レベル1のときは簡単にクリアできるもの。スーパーベターも同じ。最初は簡単なクエストですが、段々と難しくなっていくようにデザインしています。成功体験を積み重ねることで、もっとクリアしていこうという気になるのです。