2014年10月に日本市場に参入した、デジタル広告技術ベンダーの台湾エイピア(Appier)。同社は人工知能がユーザー行動を分析し、ユーザーに最適な広告を表示するという技術を提供するベンチャーで、米ハーバード大学などでロボットや人工知能(AI)の研究開発に携わってきた台湾出身のチハン・ユー氏が起業した。なぜAI研究者が広告ビジネスに転じたのか。ユー氏に聞いた。

(聞き手は中田 敦=日経コンピュータ)。

まずエイピアがどのような会社か教えてください。

 今、デジタル広告は大きな課題に直面しています。それは、ユーザーが複数のデバイスを同時に使用する「マルチデバイス」や「マルチスクリーン」への対応です。ユーザーはスマートフォンだけでなく、スマートグラス(眼鏡)やスマートウォッチ、スマートTV、壁面をディスプレイにしたスマートウォールなどを使い始めようとしています。どのユーザーが、どのスマートスクリーンを使っているのかを把握できなければ、広告主は的確な広告をユーザーに届けることができません。しかしこのようなユーザー行動の分析は、従来の「Cookie」「デバイスID」だけでは不可能です。

写真1●台湾エイピア 最高経営責任者(CEO)兼共同創業者 チハン・ユー氏
写真1●台湾エイピア 最高経営責任者(CEO)兼共同創業者 チハン・ユー氏
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 エイピアが提供しているのは、人工知能(AI)がユーザーの行動を学習し、そのユーザーがどのスマートスクリーンを利用しているのかを突き止めて、ユーザーに最適な広告を表示するというテクノロジーです。AIは各ユーザーの行動を基に、ユーザーがどのようなデバイスを所有しているのかを学習します。次にAIはユーザーの行動を予測し、ユーザーが広告に興味を持ちそうな時間やデバイスの種類を学びます。

 例えばあるユーザーが不動産サイトを閲覧して、「お台場」周辺の不動産物件を見たとします。我々の技術を使えば、ユーザーがスマートフォンを持ってお台場周辺に近づいた時に、改めてその周辺の物件の広告を届けられます。現在のデジタル広告では、ユーザーが興味を持っている話題について何度も同じ広告を表示する「リターゲティング」が主流になっていますが、同じ内容を何度も表示しているとユーザーが広告に対する興味そのものを失うかもしれません。リターゲティングを超えた広告提供を、我々は目指しています。

AIはどのようにして、ユーザーの行動を学習しているのですか。

 あらかじめ、ユーザーがデバイスを使用している時の行動を学習することで、デバイス毎のユーザーの「行動パターン」を見つけます。そして次にその行動パターンを使って、ユーザーがどのデバイスを使用しているのかを予測する仕組みです。

 人間があらかじめ正解となる「教師データ」を与えて機械に学習させる「教師有り学習」や、教師データを与えない「教師無し学習」など、様々な手法を組み合わせています。「Cookie」や「デバイスID」も使っていますが、それらのデータの背後に何があるのかを、ユーザーの行動情報を基に判断できる点が、我々の技術の特徴になります。