社員の私物端末を業務に活用する「BYOD(Bring Your Own Device)」。スマートデバイスの揺籃期に一時盛り上がったが、最近、あまりこの言葉を聞かなくなった。代わって、2014年に目にする機会が増えたキーワードが「ワークスタイル改革」だ。スマートデバイスの法人導入を支援するイシンの大木豊成代表取締役社長は、ワークスタイル改革を推進するには、BYODとは逆に、会社端末を個人でも利用する“BYCD(Bring Your Company’s Device)”が望ましいと述べる。大木氏にその考えを聞いた。

(聞き手は羽野 三千世=日経コンピュータ


イシン 代表取締役社長の大木豊成氏
イシン 代表取締役社長の大木豊成氏
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BYODという言葉を最近あまり聞かなくなった。

 BYODへの関心が高まっていた時期、私はその目的が日本の経営者に正しく伝わっていないと感じていた。BYODの本来の目的は、従業員に対して各々快適なIT環境を使用することを許可し、業務の生産性を上げることにある。しかし、日本の多くの経営者は、BYODをコスト削減の手段と捉えられていたふしがある。従業員の私物デバイスの通信費を半額負担して業務利用させれば、業務用デバイスの導入費用を半分に抑えられる・・・と。

 例えば月額6000円の通信費を半額にしたかった経営者は、3000円以上の投資をしようとしない。だから、国内では次第にBYOD導入が減速していった。BYODを導入しようとすれば、端末代と通信費の負担だけではすまない。社内のどのシステムにどう接続するのか、コンサルタントを雇って検討しなければならないし、セキュリティ対策やマルチプラットフォームの対応などのシステム投資も必要になる。

 また、従業員にとってみれば、私物端末をMDM(モバイル端末管理)で会社に監視されるのは気持ちのいいものではない。

 BYODでは、会社も従業員もハッピーにならない。それであれば、私は、BYODの反対に、会社が支給する端末を個人利用する、“BYCD”(Bring Your Company’s Device)という考え方もアリなのではないかと思う。

 シンプルに、会社から支給されたiPhoneの1台持ちにして、業務以外に個人のLINEをやってもいいし、奥さんに電話をしてもいい。せっかくiOS端末はサンドボックス化されてアプリケーション間連携ができない構造なのだから。従業員が悪意を持って操作しない限り、業務アプリでやりとりされたデータが個人のLINEなどから漏えいする心配はない。

“BYCD”で働き方はどのように変わるのか。

 会社端末の1台持ちになれば、いい意味で公私混同できるようになると考える。プライベートな時間に、プライベートでも使っている端末で業務連絡を確認し、必要であればそのままアクションできる。それによって、在社時間や仕事部屋にこもる時間が減り、自分の時間が増えて人生が充実する。

“BYCD”は持ち帰り残業の把握など労務管理にも役立つか。

 確かに、従業員がこれまで私物デバイスで行っていた見えない労働時間が把握できるようにはなるだろう。しかし、場所や時間にとらわれない働き方が可能な環境において、会社が従業員の就業時間を管理することに、どれ程の意味があるだろうか。

 時給ワーカーなど、会社側で就業時間を管理すべき働き方があるのは事実だが、BYODやBYCDは、時間で縛る必要のないビジネスパーソンのものだ。自分自身で、仕事と私事の優先順位をつけ、1日24時間をどう使うか、コントロールする意識を持つことが大切だ。