クラウドコンピューティングの進展に伴って、大手アプリケーションソフトベンダーの間でライセンス体系を見直す動きが相次いでいる。各ベンダーは収益を維持しつつ、ユーザーがメリットを感じられるように腐心する。ユーザーにとっては、コスト増になることもあれば、余分なライセンス料を削減するチャンスにもなり得る。

 「Photoshop」「Illustrator」「Acrobat」など画像・文書制作分野のソフトで高いシェアを持つアドビ システムズは2014年6月に「Adobe Creative Cloud」のサービス内容とライセンス体系を刷新(関連記事:米アドビのクリエイター向けクラウド、「マーケッターとの連携を強化」)。その後、大口ユーザー向けに「Adobe Creative Cloudエンタープライズ版」の浸透を図っている。マーケティング本部デジタルメディアグループリーダーの栃谷宗央氏(写真1)に狙いを聞いた。

(聞き手は清嶋 直樹=日経コンピュータ


新しい「Adobe Creative Cloudエンタープライズ版」を投入したのはどういう狙いか。

写真1●マーケティング本部デジタルメディアグループリーダーの栃谷宗央氏
写真1●マーケティング本部デジタルメディアグループリーダーの栃谷宗央氏
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 エンタープライズ版を契約すると、「Photoshop」「Illustrator」「Acrobat」「InDesign」など14のアプリ全てについて、常に最新版を利用できる。旧来の仕組みでは、アプリの更新サイクルはおおむね18~24カ月だった。今後は常に最新版の機能を使えるようになる。逆に互換性や使い勝手などのために旧版をあえて使うこともできる。

 写真や映像などのデータを保管する専用のクラウドストレージも提供する。クリエイティブ・編集の分野では人・部門間のファイル共有が頻繁に発生する。ファイルサーバーなどを用意しなくても、組織内部でファイルを共有できるメリットがある。

料金体系は。

 エンタープライズ版は大口ユーザー限定のプランだ。ユーザー規模が100ユーザー以上で、最低3年契約を原則としている。料金は個別見積もりになるが、大口・長期契約に見合うリーズナブルな価格を提示する。ユーザー数は1年ごとに見直すことができる。

写真2●「Adobe Creative Cloudエンタープライズ版」の管理画面
写真2●「Adobe Creative Cloudエンタープライズ版」の管理画面
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 見直し以外のタイミングでも、ユーザーが退職したりアドビ製品を使わない部署に異動したりした場合は、契約ユーザー数の範囲内で別のユーザーにライセンスを移行させることができる。そのための管理画面「エンタープライズ・ダッシュボード」(写真2)を提供している。企業にとっては、組織全体でライセンスの買い過ぎるような無駄を回避できる。

コスト面でのメリットはあるのか。

 従来とライセンスの考え方が違うので、一概に比較しづらい。だが少なくとも、社内の各部門が個別に購買するのに比べて、管理しやすくなるメリットがある。部署で個別にソフトを購入すると、異動や組織変更などに伴って買い過ぎが生じたり、古いバージョンを使い続けたりするケースがよくある。新サービスではこれが解消される。

 メディアやゲーム業界など、日常業務でアドビのアプリ群を大量に使っている場合はメリットが大きいはずだ。日本国内では、KADOKAWAや共同印刷、スクウェア・エニックスなどでエンタープライズ版を導入していただいた。鹿島建設は工事に関する大量の文書の電子化に社内の各部署でAcrobatの利用が増大していたため、エンタープライズ版の契約でコストを抑制している。こうした業界の企業に個別にセールスをかけているところだ。