パブリッククラウドサービスの「Microsoft Azure」を核に、各業種の「デジタルトランスフォーメーション(デジタル技術を活用した変革)」に注力する米マイクロソフト。同社で業種向けの取り組みを統括するコーポレートバイスプレジデント(CVP)のトニ・タウンズウィットリー氏が初来日した。製造、金融、政府や公共セクターなど、多くの業種で変革を推進してきた同氏に、人工知能(AI)やIoT(インターネット・オブ・シングズ)を使ったグローバルの成功事例を聞いた。

(聞き手は井原 敏宏=日経クラウドファースト


マイクロソフトは各業種のデジタルトランスフォーメーションに注力している。AIやIoTを活用した世界の成功事例を教えてほしい。

 特に顕著な成果が出ていて、成功事例が多いのは製造業だ。独自動車大手のダイムラー、エレベーター世界大手で鉄鋼・エンジニアリングを手掛ける独ティッセン・クルップ、米制御機器大手のロックウェルオートメーションなどが先進的な取り組みをしている。

米マイクロソフトの業種向け取り組みを統括するコーポレートバイスプレジデントのトニ・タウンズウィットリー氏
米マイクロソフトの業種向け取り組みを統括するコーポレートバイスプレジデントのトニ・タウンズウィットリー氏
(出所:米マイクロソフト)
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 変革で重要なのはITとOT(制御技術)の連携だ。例えば製造現場ではAzureの画像認識AIなどを使い、不良品を判定したり予知保全を実施したりしている。日本でも送電線など、インフラの状況監視などで活用例がある。

 立体映像用ヘッド・マウント・ディスプレーの「HoloLens」も現場に変革をもたらしている。工場の修理担当者は両手が塞がっているが、HoloLensを使うとハンズフリーで予知情報を参考にしながら修理や各種作業をこなせる。実際にこうした事例が出てきている。

20年間同じ業務プロセスをITが変革

 興味深いのはITの活用が業務プロセスに変革をもたらす点だ。ティッセン・クルップは身体障害者や高齢者向けの家庭用階段昇降機の製造について、20年間同じ業務プロセスのままだった。

 以前は階段に合わせて精密なレールを製造するため、顧客の自宅を訪ね、昇降機を取り付ける階段を計測していた。ただ、測定ミスによって計測し直したり作り直したりするケースがあった。時には3回計測をやり直し、顧客から苦情が来たこともあったという。

 ティッセン・クルップはHoloLensを使って、この問題を解決した。最初の訪問時に昇降機のホログラムを階段に重ねて、1回で正確に計測できるようにした。計測データはAzureを通じて自動的に製造チームにも共有されるため、それまでのように手入力の手間も無くなった。ITによる営業と製造プロセスの連携で、納期を4分の1に短縮できた。

独ティッセン・クルップの階段昇降機におけるHoloLens活用例
独ティッセン・クルップの階段昇降機におけるHoloLens活用例
(出所:米マイクロソフトのブログ)
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 さらに強調したいのは、顧客が昇降機のデザインや色を一緒に考えられるようになった点だ。HoloLensの活用により、営業担当者は顧客に昇降機を視覚的に見せられるようになった。ITの活用によって生産性に加え、顧客の満足度も向上できたというわけだ。大切なのは単純にテクノロジーを導入するのではなく、ビジネスプロセスの変革までつなげることである。