企業の情報システム部門の課題としてITを活用した新規ビジネスの創出力が意識されるようになって久しい。だが、海外事情に詳しいデザイン・コンサルティング会社、ソシオメディアの篠原稔和代表取締役は、日本企業の情報システム部門の弱点として、UIデザインをきちんと理解している人材が乏しいことを指摘する。UXとUIの専門家の視点から見た国内の情報システム部門の課題や動向を聞いた。

 同氏はこれまで本業のコンサルティングのほか、専門誌・日経デザインに寄稿したり、情報システムのユーザーインターフェース(UI)やユーザー体験(UX)に関する書籍の監訳を務めたりしたほか、海外のUXやUIの専門家を招いた講演会を開催するなどの活動も活発に行っている。

(聞き手は井上 健太郎=コンピュータ・ネットワーク局)

写真●UIデザイン関連のコンサルティングを手がけるソシオメディアの篠原稔和代表取締役
写真●UIデザイン関連のコンサルティングを手がけるソシオメディアの篠原稔和代表取締役
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日本企業の動向として、どういうときにUIデザインに関する意識の低さを感じるのですか。

 当社が携わっているのは7~8割が一般企業の情報システムのUI関連の支援ですが、1990年代は「システムの画面のデザインってどう取り組んでいますか?」と尋ねると、「服のセンスがいいから、あの女性スタッフに任せてみた」というような話がよく聞かれました。まだ「UIがシステムやサービスの価値を大きく左右する」という認識が日本でほとんど浸透していなかった頃の話で、コンピュータ技術者がきちんと勉強して取り組むようなものだと思われていませんでした。

 自動車や家電メーカーのように製品デザインを重視する企業ではさすがにこのようなことはなくなりつつありますが、今でも、情報システムのデータ処理機能を作り込んだ後に、“お化粧する”ような感覚でUIデザインに取り組んでいる事例は少なくありません。このような取り組み方では、米アップルのように、情報システムや製品を組み合わせて、ユーザーをファンにするような顧客経験を実現することは不可能です。

多くの企業の情報システム部門にとってUXやUIデザインが重要になってきているのはなぜですか。

 まず、消費者向けマーケティング部門からの要請が強まっていることです。消費者と向き合い、どういうニーズがあるのか、「体験を作る」ということがマーケティング上、当たり前のやり方になってきています。なので、消費者向けのビジネスに関わる情報システムのプロジェクトのときにUXという言葉が出てくることが確実に増えています。

 事業のグローバル化も要因の一つです。ある企業は、情報システムを使ったサービス事業が国内では成熟したのでアジアに展開したところ、北米企業が提供する競合サービスと比べて使い勝手の評判が悪い、ということで相談に来られました。そこで北米の競合相手が何をやっているのだろうと調べてみると、UXのスペシャリストをたくさん抱えて取り組んでいる、という体制の違いがまず浮かび上がったりします。

 また、近年、「デザイン思考」や「リーンスタートアップ」といったキーワードとともに、デザイナーの思考法を取り入れたベンチャー企業のイノベーション手法に興味を持つ方が大企業で増えてきたことも要因に挙げられるでしょう。