米グーグルと米アドビシステムズが共同で取り組んだ日中韓対応のフォントファミリー開発。この前人未踏のプロジェクトは今年、無事開発を終え、7月にはアドビが「Source Han Sans(ソースハンサンズ)」(和名は源ノ角ゴシック)として公開し、グーグルは「Noto Sans CJK(ノトサンズCJK)」として公開した。オープンソースとして開発されたこのフォントは、中国語簡体字、中国語繁体字、日本語、韓国語に対応したフォントで、無料で利用できるのが特徴だ。このプロジェクトを率いたのがアドビのケン・ランディ博士だ。ランディ博士は世界的にも著名なCJKVフォント(中国語・日本語・韓国語・ベトナム語のフォント)の専門家で、最終的な字体(グリフ)やUnicode(ユニコード)などのマッピングの仕様、各パートナーとのやり取りやデータの統合、最終的なフォントリソースの作成を管理した。ランディ博士に同プロジェクトを振り返ってもらった。

(聞き手は原 隆=日経コンピュータ)

ケン・ランディ氏
ケン・ランディ氏
米アドビシステムズの日中韓越フォント開発シニアコンピュータサイエンティスト。アドビで東アジア圏のフォント専門のシニアコンピュータサイエンティストとして23年以上勤務。著書に『CJKV日中韓越情報処理 第二版』(O’Reilly刊)がある。(撮影:菊池 くらげ)
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そもそも、このプロジェクトはいつからスタートしたのか。

 構想そのものは15年前に立ち上がった。より具体化した今回のプロジェクトはおよそ4年ほど前に始まった。米グーグルとの共同開発プロジェクトだったため、契約書を作らなければならなかった。弁護士同士が侃々諤々、契約書をまとめるのに2年間ほど時間がかかり、実際に開発が始まったのは2012年だ。

 アドビはフォントをデザインする能力、マネージする能力に優れている。グーグルにはデザインにかかる費用をもってもらい、全体として両社共同開発体制となった。

 実際、プロジェクトの進行は苦難の連続だった。今までこういったフォントを作った経験がそもそもなかったからだ。例えば、日中韓のフォントで、文字のどの文字を共有できるかという点。中国語には簡体字と繁体字があり、日本語と韓国語で用いられる漢字を含めると、一つの文字に対して最大で4つの異なる字体を用意しなくてはならない。

 例えば、「一」という字は日本語でも韓国語でも中国語でも同じ「一」だ。だが、「字」という漢字はうかんむりの点の付き方が日本と韓国は同じだが、中国語は少し異なり通用しない。「骨」という漢字は日本語と韓国語は一緒だが、簡体字と繁体字で違う。「曜」という字に至っては、日本語、韓国語、簡体字、繁体字ですべて異なる。このように、基となる同じ漢字から発展しても、国によって異なる発展を遂げている。こうした一つひとつの漢字の共通化できる部分とできない部分を探して切り分ける作業は困難を極めた。

「一」という字は日本語でも韓国語でも中国語でも同じ「一」。「字」という漢字はうかんむりの点の付き方が日本と韓国は同じだが、中国語は少し異なる。「骨」という漢字は日本語と韓国語は一緒だが、簡体字と繁体字で異なる。「曜」という字は、日本語、韓国語、簡体字、繁体字で全て異なる。こうした一つひとつの漢字の共通化できる部分とできない部分を探して切り分ける作業は困難を極めたという
「一」という字は日本語でも韓国語でも中国語でも同じ「一」。「字」という漢字はうかんむりの点の付き方が日本と韓国は同じだが、中国語は少し異なる。「骨」という漢字は日本語と韓国語は一緒だが、簡体字と繁体字で異なる。「曜」という字は、日本語、韓国語、簡体字、繁体字で全て異なる。こうした一つひとつの漢字の共通化できる部分とできない部分を探して切り分ける作業は困難を極めたという