米Synopsys社は、ハードウエア記述言語から半導体の実装レベルの設計を生成する論理合成のパイオニアであり、電子系の設計作業を支援するEDA(Electronic Design Automation)ツールの大手ベンダーである。同社は、ソフトウエア静的解析ツールで有名な米Coverity社を2014年に買収し、ソフトウエア開発支援分野に参入した。2015年には、OpenSSLの脆弱性「Heartbleed」を発見したことで知られるフィンランドCodenomicon社も買収している(ITproの参考記事)。Synopsys社の共同設立者であるAart J. de Geus氏(写真)にソフトウエア参入の狙いを聞いた。

(聞き手は大森 敏行=日経ソフトウエア


写真●米Synopsys社のAart J. de Geus Chairman&co-CEO
写真●米Synopsys社のAart J. de Geus Chairman&co-CEO
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Coverity社を買収した理由を教えてほしい。

 いくつか理由がある。まず、人材、製品、市場ポジションの獲得のためだ。半導体業界でも実際にはハードウエア技術者よりもソフトウエア技術者の方が数が多い。しかし、Synopsys社はソフトウエア開発支援の分野では後れを取っていた。そこで買収によりキャッチアップすることにした。

 また、Synopsys社自身がCoverity社のツールのユーザーだったということもある。Synopsys社は業界で最も複雑なソフトウエアを手掛けており、コードの行数は4億行に及ぶ。こうしたコードの最適化や解析にCoverity社のツールを10年間、使ってきた経験がある。2社が一緒になることは自然な流れだった。

Synopsysが手掛けてきた半導体設計支援とCoverityが手掛けるソフトウエア開発支援は、分野としては少し遠いのではないか。

 半導体設計支援ツールを開発するということは、洗練されたアルゴリズムのソフトウエアを書くということだ。一方、ソフトウエアの品質を検証するツールも洗練されたアルゴリズムのソフトウエアだ。そうした意味では、違いはないと考えている。

 我々の顧客のほとんどは、実際にはハードウエアとソフトウエアの両方を同時に開発している。現在の半導体チップは、数十億個ものトランジスタからなる大変複雑なものだ。これを動かすには、組み込みソフトウエアが必要であり、これも同じように複雑なものだ。システム全体がうまく動くには、チップとソフトウエアのどちらにエラーがあっても駄目だし、両者がやり取りする部分にエラーがあっても動かない。徹底的な検証が必要だ。そうした意味で、従来の顧客から見ても自然な買収だったと思う。

 Synopsys社はハードウエアからソフトウエアに向かって成長してきた。ソフトウエア業界がソフトウエアからハードウエアに向かって拡大しているのと対象的だ。Coverity社は組み込みソフトウエアとアプリケーションソフトウエアの2つの市場を持つ。持っている市場に補完関係があるのだ。

買収の背景をもう少し詳しく教えてほしい。

 次世代のコンピューティングではソフトウエアの需要が拡大する。組み込みソフトウエアとアプリケーションソフトウエアの両方だ。これにより、ビジネスの機会が増える。従来はハードウエア主体だったが、現在はハードウエアとソフトウエアの組み合わせになっており、将来はソフトウエアが主体になっていく。ハードウエアでもソフトウエアでも、技術的課題や複雑性は同じだ。

 Synopsys社としてこの流れにどう対応するかを考えたとき、自社開発に加えて買収も選択肢にあった。当社はEDA分野では最先端のリーダーだと自負しており、買収するなら、ソフトウエア開発の品質保証分野で最先端を行く企業にしたいと考えていた。

 そうした検討の中で浮上してきたのがCoverity社だ。当社はすでにCoverity社の製品を活用しており、同社のコード分析ツールが優れていることは知っていた。単にバグや問題を見つけ出すのが得意というだけでなく、フォールスポジティブ(正常を異常と誤検知すること)が少ないという特徴もあった。

 Coverity社の買収以降も、この分野には多くの投資を行っている。当社は全世界に多くの拠点を持っているが、そこを足場に事業規模をさらに押し広げている。また、Coverityの技術を補完するセキュリティ関連企業のCodenomicon社も最近買収した。