「我々は無数のレゴブロックを提供する」――。シリコンバレーに本社を置き、クレジットカード発行会社向けにSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)型のカード決済プラットフォームを手掛ける米i2c。同社でCEO(最高経営責任者)を務めるアミール・ウェイン氏は、同社サービスの特徴をこう表現する。カード会社は、同社が提供する機能をレゴブロックのように組み合わせて、素早くカード事業を始めたり、変革したりすることが可能という。i2cは2016年2月にTISと提携、日本での本格的な事業展開に乗り出している。

(聞き手は岡部 一詩=日経FinTech


米i2cのアミール・ウェインCEO(最高経営責任者)
米i2cのアミール・ウェインCEO(最高経営責任者)
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サービスの特徴を教えてほしい。

 アジャイルであること。これが当社サービスの最大の特徴だ。カード決済業務に必要な機能を細分化して開発し、組み合わせて提供している。いわばレゴブロックのような仕組みだ。従来、カード事業を手掛けるには大規模な基幹システムを導入する必要があったが、当社サービスの場合、無数の部品の中から必要なものだけを選択して組み合わるだけでよい。

 もし顧客が業務を変えたい場合は、該当機能だけを差し替えるだけ。新機能が必要なら、足りない機能を開発して提供することも可能だ。既存機能は十分にテストしているため、信頼性は担保できている。変更のあった機能、あるいは新たな機能を加えて、総合テストをするだけなので、非常にスピーディーに対応できる。

3年様子見では手遅れ

 スピードは非常に重要なポイントだ。カード利用者が求める機能は、日々変化し続けている。かつては10年ともいわれたイノベーションサイクルは、今や3年程度にまで縮まっている印象だ。例えば米アップルの「Apple Pay」が登場したときに、「様子を見て、5年後には対応しよう」では話にならない。3年でも既に手遅れだ。カード会社は常に迅速な経営判断を迫られている。

 短期間で導入できることは、裏返すとコストも下がることにつながる。3カ月で導入するのと、何年も掛けて導入するのとでは、コストが全く違う。当社はセルフサービスを重視しており、管理画面を使って、好きなようにカスタマイズもできる。専門的なプログラムの知識は不要だ。当社に変更作業を依頼する必要はない。

どれくらいの数の機能に細分化しているのか。

 一概には言いにくいが、毎年50万時間をかけて開発し続けている。中核となるプロセシング業務はもちろん、クーポンやリワードに関する機能も準備している。カード会社が求める機能の多くをカバーしており、新規導入時に対応が必要なのは、ボリュームにしてせいぜい5~10%程度。しかもカード会社のブランド向けに、インタフェースを作り込むといった内容がほとんどだ。機能については、当社が提供するものをほぼそのまま使ってもらえている。

 当社はグローバルで統合したアプリケーションを提供しており、事業展開する全リージョンで共通のサービスを利用できる。リージョンや国ごとに存在する特殊な要件や規制も組み込んである。

 グローバルで事業展開するカード会社は現在、リージョンや国ごとに7個や8個のシステムを保有していることが少なくない。これでは管理が複雑になり、市場の変化に迅速に対応することは難しい。

 当社のサービスならば、素早くカード事業を開始し、変更も容易だ。例えば、Visa加盟店でビットコインが使えるカードを発行する米シフトの場合、最初に相談が寄せられてから60日程度で開発を終えた。

TISと提携した。その狙いは何か。

 実は、パートナーシップを組んだのは日本だけ。日本は独特な市場で、大規模かつ独自の要件が多い。当社は北米や英国、オーストラリアなどで、基本的には自社のセールスチームが案件を直接手掛ける体制を採ってきた。しかし日本市場に参入するには、レゴブロックをうまく組み合わせて顧客に提供できるパートナーが必要だと考えていた。TISは、当社のコンセプトをしっかりと理解し、同じ価値観を共有してくれたと思っている。