クラウド導入を検討している企業に向けたイベント「OpenStack Days Tokyo 2016」の実行委員会委員長を務めた長谷川 章博氏。長谷川氏に、OpenStackの啓蒙活動を行うなかで考えていることについて聞いた。

(聞き手は久保田浩=日経ソフトウエア


OpenStackの普及活動をしているなかで、どのようなことを考えられていますか。

写真●ビットアイル・エクイニクス ビットアイル総合研究所 所長の長谷川氏
写真●ビットアイル・エクイニクス ビットアイル総合研究所 所長の長谷川氏
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 OpenStackというと「クラウドのサーバーホスティング」の一形態だと思っている人が今でも多いんです。誤解されやすいポイントですが、そうではなくて、あくまでもソフトやシステムを迅速に開発・展開するための「IT基盤(ITインフラ)」のためのテクノロジーです。ITインフラをプライベートクラウドで構築するためのテクノロジーがOpenStackなのです。

 OpenStackは、様々な機能を提供するコンポーネントで構成されています。ストレージやネットワークなどの機能もコンポーネント化されています。サーバーホスティングだけではありません。

OpenStackを導入する企業はどういう企業なのでしょうか。多くはパブリックなWebサービスを提供するような、“クラウドネイティブ”な企業だと思うのですが。

 先進的な大手企業では、自社内のIT基盤をOpenStackに乗せ換える事例が出てきています。例えば、JFEスチールキリンなどの企業です。

 ちょっと話が脱線しますが、ITインフラの形態についてお話ししたいと思います。ITインフラの形態で、「ペット型」と「キャトル(家畜)型」があるのはご存じですか?

 ペット型というのは、犬や猫といった愛玩動物のように、ITインフラを管理する形態です。ペットは一匹ずつ名前を付けてかわいがりますし、一匹たりとも死なせないようにしますよね。そのように、1台1台のサーバーを大事に面倒をみるような管理方法です。

 一方、キャトル型はそうではありません。例えば乳牛であれば、牛乳を取ることが一番大きな目標です。一匹ずつ名前を付けてかわいがるかもしれませんが、目的はペットのように愛玩することではありません。名前ではなくタグで管理しますし、一匹ずつではなく、“群れ”として管理します。つまり、サーバーが1台落ちたところで、システム全体が稼働し続けるようにITインフラを管理する形態がキャトル型です。

 少し前までは、いかにサーバーを落とさないかということにITインフラ管理者は苦労していました。一匹ずつ面倒をみるペット型です。しかし、ITインフラのコストが下がったこともあり、管理の在り方はキャトル型に移行しています。もちろん、OpenStackを採用したITインフラであってもペット型によるITインフラの提供もできますが、経済性や機能性だけの面でみればキャトル型が本流です。

IaaSの登場は、ペット型からキャトル型への移行を促しました。

 話を本題に戻しますね。確かにこれまではクラウドネイティブなWebサービス企業がOpenStackに注目していました。その一方で、一般企業でもOpenStackに注目し、自社に取り込んでいます。そうした企業に私が期待しているのは、デジタルならではの新サービスにOpenStackを取り込むことです。例えば自動車メーカーがスマートカーといった新サービスのためのITインフラにOpenStackを採用することはそれにあたります。サービス寄りのITインフラといったらよいでしょうか。こうしたITインフラであれば、キャトル型の管理を推奨できます。一般企業でも、新しいデジタルビジネスの分野であれば、キャトル型もあり得るわけです。こうした分野が伸びていくことを期待しています。

 もちろん、企業の社内ITインフラでこれまでペット型だったものを、いきなり全てキャトル型には移行できないケースは多いようです。そこで、OpenStackを採用し、新サービス部分をキャトル型で構築し、ペット型の部分を順次キャトル型に移行していくという事例がありますね。