米パロアルト研究所(PARC)はシリコンバレーに位置する研究機関で、GUIやイーサネットなど、コンピュータに関する数多くの革新を生み出してきた。IoT(インターネット・オブ・シングズ)に似た概念として、過去に「ユビキタスコンピューティング」を提唱したのもPARCの研究者だった。
トルガ・クルトグル博士はPARCのCEOを務める人物だ。米ゼロックスの子会社として実施する研究開発や、日本企業を含む外部とのビジネスを統括する。「IoTが創造的な破壊をもたらす」と語るトルガ・クルトグル氏が、PARCの研究開発とIoTの将来について報道関係者向けグループインタビューで語った。
米パロアルト研究所(PARC)はどのような組織か。
1970年、PARCはゼロックスの研究部門として出発した。レーザープリンター、PC、オブジェクト指向プログラミングなどを生み出し、コンピュータ業界を変え続けてきた。従業員約200人のうち、約150人が科学者やエンジニアだ。
現在のPARCは研究所とコンサルタントを併せた存在だ。現在、1000を超える企業、政府機関と仕事をしている。研究だけでなく、製品コンセプトの検証やプロトタイプの開発も行う。PARCは、顧客が持つ技術の商業化を支える存在になっている。
PARCと日本企業との関係は。
日本の顧客との仕事は、日常的に10件から12件を抱えている。業種で言えばエレクトロニクス、FA機器、自動車、物流、そしてエネルギー分野などだ。
日本の企業がIoTに取り組む上で、パートナーとしてPARCを選んでいるのは何故か。
日本の大企業のCTO(最高技術責任者)やCIO(最高情報責任者)は、製品が生む大量のデータをどのように活用して価値に変えるか悩んでいる。顧客がPARCを頼るのは、シリコンバレーのなかでも最高のデータサイエンス能力を持つからだ。顧客企業は、PARCと組むことでIoTシステムの全体像を把握したいと考えている。
企業がIoTシステムを新たに構築するうえで、どのような課題に直面しているのか。
一つめは、ソフトウエアの機能をどれだけ増やせるか。自動車が良い例だ。かつては機能のほとんどをハードウエアが提供していたが、現在はその半分をソフトウエアが提供している。駐車アシスト、車線逸脱検知、燃費の予測、クルーズコントロール。挙げればきりがない。
二つめは、開発プロセスの改善だ。IoTシステムの開発は、ソフトウエアとハードウエアを統合する能力が必要だ。従来のようにプロトタイプの開発をして検証するだけでは不十分。実世界をモデリングし、バーチャルな環境でソフトウエアとハードウエアが統合したシステムを検証する工程が必要だ。
三つめは、セキュリティだ。ソフトウエアの比重が高まる一方、サイバー攻撃への対策を強化する必要がある。
IoTは、新しいビジネスモデルの構築を主導する。米GE(ゼネラル・エレクトリック)の例を出したい。IoTを活用することで、GEは航空機のエンジン自体を売る企業から、エンジンが稼働する時間を売る企業に変わった。ハードウエアが出力する情報が価値になりつつある。