データとITで、旧態依然とした不動産業界を変える――。不動産ビジネスとITを掛け合わせた不動産テックのベンチャー、リーウェイズの巻口 成憲CEOはこう意気込む。頼みとするのは8年がかりで集めた3000万件の不動産相場データ。資産価値をガラス張りにして、全国の投資家と不動産会社の取引を支援する。不動産業界の問題点とIT活用の可能性、事業戦略を聞いた。

(聞き手は玉置 亮太=日経コンピュータ


リーウェイズの巻口 成憲代表取締役CEO
リーウェイズの巻口 成憲代表取締役CEO
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現在の投資不動産業界の問題点をどう考えますか。

 一番大きな問題は不動産取引自体が、営業担当者の勘と経験と度胸に頼り切っていることだ。不動産会社の営業担当者が使う情報と言えば、いわゆるマイソク(案内図面)と現在の利回り(表面利回り)くらい。あとは経験と勘と度胸、さらには気合いと根性で売り込むスタイルがまかり通っている。

 表面利回りを基に投資を薦めるのは、少し考えればおかしいと分かるはず。AとBという物件のいまこの瞬間の利回りが6%だとしても、将来10年間の上昇率や下落率は物件によって異なる。当然、得られる収益も変わる。こうした分析が、取引の現場でいまだになされていないのが実情だ。不動産投資の資格試験の教科書にも「家賃は一定として計算するものとする」といった趣旨の記述があるくらいだ。

 重要なのは将来の資産価値をできるだけ適切に評価できるようにすることだ。購入価格と将来の売却価格、対象の物件の賃料と周辺の平均賃料の差や伸び率、想定される年間収入、そして最終的なリターン。こうした情報を総合的に評価して不動産投資ができるようにする必要がある。

 情報の「非対称性」も問題の一つ。物件の相場情報が不透明で、不動産会社に比べて投資家が得られる情報が少ないことだ。結果として、不動産会社は相場が分かっているが、投資家は分からないといった状況が生まれている。

3000万件のデータで資産価値を評価

なぜこれまでは資産価値を適切に評価できなかったのでしょうか。

 評価の根拠になるデータと評価の手法、その両方がなかったからだ。当社は8年間、ネットなどを通じて不動産の相場データを集めた。データ件数はおよそ3000万件だ。

 このデータを基に開発した投資不動産取引システムが「Gate.」だ。代表的な機能の一つが、資産価値のシミュレーション。投資家は売りに出ている物件について、購入価格や売却時期を画面上で入力すると、将来の賃料や収支、売却価格などをシミュレーションできる。

既存の不動産業者にとって、Gate.は競合になるのですか。

 そうではない。投資家に加えて、不動産会社もGate.の想定利用者だ。

 まず買い手である投資家は、Gate.のシステム上で投資対象の不動産を探す。投資する物件を決めたらGate.のシステム上で取引を申し込む。

 Gate.を通じて受け付けた物件の売買契約の仲介や物件の管理など、不動産取引業務は物件がある地域に拠点を構える全国の不動産会社に任せる。投資家は不動産会社に仲介手数料を支払う。当社は仲介手数料の2割を紹介あっせん手数料として不動産会社から受け取る。

 不動産会社にとっては、Gate.がインターネット上の仮想的な営業店として機能する。いままでは物件がある地域や自社の店舗がある周辺地域の投資家以外と取引をするのは難しかった。Gate.を使えばネット経由で、例えば東京の物件の取引を福岡の投資家との間で仲介する、といったことも可能だ。