クレジットカードブランド「MasterCard」運営の米マスターカードは、独自のモバイルウォレット(電子財布)サービス「MasterPass」を世界で展開している。2014年にサービスが始まった日本での知名度はまだ低いが、現在は日本を含む世界29カ国、25万の加盟店で利用できる。
MasterPassは、VISA、MasterCardなどブランドを問わずカード情報を登録でき、スマートフォンのモバイルアプリやWebサイトにカード決済機能を提供する。店頭向けにはQRコード決済が使えるほか、モバイルNFC決済にも対応する予定である。カードブランド会社が自ら、米ペイパルや米スクエアのような決済代行ビジネスを手掛けている格好だ。
従来のカードブランドという枠を超え、マスターカードという企業が目指す方向性とは。同社 プロダクト責任者のギャリー・フラッド氏に話を聞いた。
マスターカードの手掛けるMasterPassは、いわば「Apple Pay」のようなモバイルウォレットに当たる。カードブランドの企業であるマスターカードが、なぜこうしたサービスを手掛けるのか。
まず言っておきたいが、我々マスターカードは、クレジットカードの企業ではない。カードを含めた電子決済の技術を扱うテクノロジー企業だ。
例えば、新技術の開発を手掛ける「MasterCard Labs」の拠点をダブリン、シンガポール、ニューヨークに置き、イノベーションの脈を探している。FinTechスタートアップのコミュニティとも深く関わり、支援している。MasterPassは、マスターカードのデジタル決済分野での存在感(footprint)を示す製品だ。いわば、アクセプタンスマーク(店頭でカード決済可を示すロゴマーク)をデジタル化したものがMasterPassだといえる。
MasterPassを使うことで、事業者はアプリやWebサイトに電子決済の機能を組み込める。例えばプリオーダーのサービス(飲食店などで、スマホアプリでオーダーや決済を済ませるサービス)も容易に開発できる。
MasterPassの開発拠点は主にインドで、約1300人の部隊が開発に携わる。銀行もAPIを通じてMasterPassを利用できる。
MasterPassのほか、どのような決済分野に注目しているか。
電子決済の大きな市場機会の一つに、政府の福祉政策による給付金がある。政府のイニシアティブで、給付金をモバイルマネー(携帯電話で扱える電子マネー)の形で支給する国が増えている。
モバイルマネーによる給付を採用することで、政府の事務効率が高まり、国民にとっての利便性も高まる。給付金がどう使われ、役立ったかを政府が把握できるなど、給付制度の透明性も高まる。
我々は、こうした新たな決済テクノロジーを、社会のニーズの一歩先を行く形で開発している。
(カード決済やモバイル決済を含む)電子決済の市場には、未だに大きな好機がある。全世界の取引のうち85%~90%は、今も現金ベースだ。米国や英国も、電子決済は50~55%ほどにとどまる。プラスチックカードの決済に加え、新たなテクノロジーで市場を開拓できる余地は大きい。
「磁気からICへ」の移行プロセスはもはやレガシー
磁気ストライプ型のクレジットカードを、偽造が困難なEMV(ICチップ搭載)型に移行させる計画の進捗は。
先進国における、磁気ストライプからEMVへの移行は順調に進んでいる。
米国では、市場で使われているMasterCardブランドカードのうち、2016年末までに67%、2017年末には97%がEMV対応カードになる見込みだ。これは、まさに標準化の成果といえる。
ただ、こうした「磁気ストライプからEMVへの移行」というプロセス自体、今やレガシー(過去の話)になっている。
新興国では、現金決済からモバイルマネー決済へと、ダイレクトに移行する例が増えている。この場合、加盟店も決済端末を置かず、互いの携帯電話だけで決済が完了する。