米Embarcadero Technologiesで開発ツール「RAD Studio」のプロダクトマネジャを務めるMarco Cantu(Cantù)氏が、「第30回エンバカデロ・デベロッパーキャンプ」のために来日。記者の取材に応じた。Turbo Pascalからの長い歴史を持つ開発ツールが、IoT(Internet of Things)時代を切り拓くと力説した。

(聞き手は原田 英生=日経ソフトウエア


米Embarcadero TechnologiesのMarco Cantu RAD Studio Product Manager

RAD Studioが生き残っていることに敬意を表したい。Turbo Pascalから数えて32年、Delphiから数えて20年、C++Builderから数えて18年だ。

 今のRAD Studioは「The Connected App Platform」だ。WindowsからMac、iOS、Android、IoTへと活躍の場を広げている。モバイル市場はゲームが大きな位置を占めているが、うちはビジネス指向。顧客企業に強さをもたらす、ビジネスレディ、エンタープライズレディな開発ツールがRAD Studioだ。マルチデバイスのUI(User Interface)をシングルコードで作れ、しかも生成物はネイティブだ。こんなツールは他にない。

 2015年4月にリリースした「RAD Studio XE8」は、Windows用の32ビットと64ビット、Mac OS X、iOSのARM7と64ビット、iOSシミュレータ、Androidのコンパイラを搭載している。iOSシミュレータはObject Pascalだけだが、他はObject PascalとC++があるから、全部で13種類だ。コンパイラの技術を持っていることは、当社の大きな強みだ。

あなたの考えるIoTとは何か。

 IoTは100人いたら100個定義があるのではないかと思うくらい、いろいろな論がある。我々は開発者の視点で見る。IoTは、ものがAPI(Application Programming Interface)を持つ世界だ。開発者はAPIを呼び出してものと話し、新たな価値を生み出す。我々は、腕時計を売りたいわけでもないし、クラウドサービスを売りたいわけでもないし、プラットホームやデータベース技術を売りたいわけでもない。開発者に、「300行ではなく3行で済ませる」ツールを販売している。他者とは立ち位置が違う。

 IoTは、デバイスをインターネット接続して膨大なデータをクラウドに集め、それを解析するようなイメージで語られる。それはちょっと違うのではないか。例えば、部屋の温度を測定するとしたら、それをミリ秒ごとにすべて蓄積してクラウドの料金を支払う必要があるだろうか。でも、急激な変化があったとしたらそれは知らせてほしいと思うはずだ。データソースの近くでデータを解析する必要がある。

 また、ユーザーはデバイスからの情報を、Webブラウザでなく、アプリで得たいと思っている。そのため、アプリ作成のコンポーネントライブラリである「VCL(Visual Component Library)」および「FireMonkey」にIoT向けの改良を施した。Wi-FiとREST(Representational State Transfer)、Bluetoothと同LE、またはカスタムなAPIを使ってデバイスと容易に通信ができる。

 米AppleのiBeaconとその対抗馬であるAltBeaconに対応したビーコンのコンポーネント「TBeacon」を提供する。ビーコンは、屋内におけるGPS(Global Positioning System)のようなものと考えることができる。ユーザーがどの機器に近付いたかを検知してアクションを起こせる。ショッピングモール、空港、美術館など、ビーコンを使ったシステム開発が始まっている。

 ユーザーが触れるモバイルアプリをより作りやすいように、既存のアプリをモバイルへ拡張する「アップテザリング」、モバイル接続ミドルウエア「Enterprise Mobility Services(EMS)」も用意した。EMSを使えばモバイル端末へのプッシュ配信も容易だ。もちろんこれまでと同様に、データベース管理システムやクラウドにある既存のエンタープライズデータへのアクセスも容易だ。XE8には多くの新機能があり、それらは開発者の発明を待ちわびている。