「世界トップのセキュリティ専業企業になる」。情報管理事業を手掛ける米ベリタスを売却し、こう目標を掲げた米セキュリティ大手シマンテックは2016年8月、46億5000万ドルを投じて、ネットワーク上でサイバー攻撃や情報漏洩を防御するセキュリティ製品に強みを持つブルーコートを買収した。PCやモバイル端末のセキュリティを守るエンドポイント製品に強いシマンテックは、ネットワークセキュリティ製品を取り込むことで高度化するサイバー脅威に対抗し、自身の企業価値をさらに高める考えだ。

 新生シマンテックを率いるのはブルーコートのCEO(最高経営責任者)だったグレック・クラーク氏。1980年代の3年間、品川区に住み、米AT&T ベル研究所の社員としてUNIX OSを日本のコンピュータに移植する仕事に従事していたという。米IBMで運用管理ソフト「Tivoli」のディスティングイッシュトエンジニアを務めるなど技術者の側面も持つクラークCEOに、現在のシマンテックの状況などを聞いた。

(聞き手は井上 英明=日経コンピュータ


米シマンテックのグレック・クラークCEO
米シマンテックのグレック・クラークCEO
(撮影:渡辺 慎一郎、以下同じ)
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CEOに就任して半年が過ぎました。

 ネットワークセキュリティがエンドポイントと一緒になると非常にパワフルになるし、シマンテックという大企業のパワーをどう生かせるのか。買収完了の数カ月前から、シマンテックに入ってからのアイデアを色々と考えてきた。

 この半年で実施したアイデアの一つがシマンテックとブルーコートのそれぞれで持っていたスレット(脅威)情報のデータベースの統合だ。(セキュリティ製品は脅威情報を基に攻撃を検知・防御するため)統合によって、ユーザーが追加コストを払うことなく、全ての製品で(検知や防御の)性能を向上できた。

 クラウド分野でも企業が安全にクラウドを使えるよう技術開発を積極的に進めてきた。もちろん、企業向けのセキュリティ維持と防御も手を抜いていない。

 シマンテックとブルーコートの相乗効果を投資家も気に入ってくれている。もっと重要なのは顧客の評価だが、北米や欧州で多くの受注を獲得しているように、今のところ好印象で受け入れられていると感じている。

 業績面でも統合後の最初の2四半期では連続で予想を上回る成長を遂げ、次の四半期の予測を超えそうだ。非常に好調といえる。

最近のサイバー脅威をどう見ているか。

 サイバー脅威はその詳細についても複雑さについても常に変化している。30年間セキュリティに携わっているがその間、常に速く変化し続けている。

 今日、攻撃を取り巻く環境は広がっている。誰でもモバイル端末を持っているからだ。数多くのエンドポイントがあり、数多くのアプリケーションがある。攻撃者が脆弱性を攻略する機会はますます多くなっている。

どう対処しますか。

 速い変化に対応するには“オープン”な姿勢が欠かせない。新しい問題や攻撃が次から次に発生するが、その解決策もまた常に出てきている。新しい解決策をベスト・オブ・ブリードで取り込むことがオープンという意味だ。

 統合後、ベスト・オブ・ブリードの考え方を具体化した新しいオープンアーキテクチャーである「インテグレーテッド・サイバー・ディフェンス」を完成させた。当社の脅威データや製品はもちろんのこと、競合他社の脅威データや製品も統合でき、さらに76社のISV(独立系ソフトウエアベンダー)がこのプラットフォームに沿って、ソフトウエアを開発している。