携帯端末向けマルチメディア放送「NOTTV」を2016年6月30日に終了すると発表したmmbi。サービス開始(2012年4月)当初は、2015年度末に600万件の契約数を目指していたが、2015年3月末の175万件(同11月末は143万件)をピークに減少が続いていた。mmbiの脇本祐史代表取締役社長(写真1)に撤退の理由や背景を聞いた。

(聞き手は榊原 康=テレコムインサイド


NOTTVの事業継続が困難と判断した理由は。

写真1●mmbiの脇本祐史代表取締役社長
写真1●mmbiの脇本祐史代表取締役社長
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 契約数は、NTTドコモがiPhoneの販売に参入する2013年9月まで順調に伸びていた。計画には若干届いていなかったが、それに近い伸びを示していた。当初はiPhoneを販売してもAndroid端末の販売に影響なく、iPhoneのユーザーを取り込んで全体の契約数が伸びると想定していたが、そうならなかった。NOTTVはiPhoneに対応しておらず(写真2)、ここから伸びが鈍くなった。それでも少しは伸びたが、2015年3月末の175万件をピークに下がり続けた。

写真2●ピクセラの「StationTV モバイル テレビチューナー PIX-DT355-PL1」を活用すれば、iPhone/iPadでもNOTTVを視聴できた。同製品をNTTドコモで取り扱うことでテコ入れを図る計画も一時はあったようだ
写真2●ピクセラの「StationTV モバイル テレビチューナー PIX-DT355-PL1」を活用すれば、iPhone/iPadでもNOTTVを視聴できた。同製品をNTTドコモで取り扱うことでテコ入れを図る計画も一時はあったようだ
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 MVNO(仮想移動体通信事業者)の躍進も少なからず影響した。最近では大手携帯電話事業者がMVNOに対抗し、廉価版の端末を拡充する傾向にある。廉価版の端末は、ワンセグやおサイフケータイはもちろん、NOTTVに対応していない。NTTドコモが発売する機種の6割以上はNOTTVに対応していたが、売れ筋はiPhoneと廉価版の端末。この点を加味すると、NTTドコモの販売数に占めるNOTTVの対応端末の割合は3割程度に下がる。かつて(iPhoneの販売に参入する直前の2013年の夏商戦で)「ツートップ」と宣伝していたころはNOTTVの対応端末の割合が9割程度を占めたため、この差は大きい。

 さらに米Netflixをはじめ、放送ではなく、通信を活用した映像配信サービスが大きく伸びてきた。サービス開始当初は、通信では当面、(放送時間の)長い番組を配信できないだろうというのが共通の認識だった。だが、現在では無線LANやLTEで高速化が進み、通信でも十分に楽しめるようになった。こうした環境の激変が大きく影響している。2015年4月にはBS/CSで人気の6チャンネルを追加して打開を狙ったが、契約数は減り続けた(図1)。これ以上、サービスを継続しても赤字が拡大するだけなので終了を決断した。

図1●NOTTVの契約数の推移
図1●NOTTVの契約数の推移
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mmbiの2014年度の最終損失は502億7800万円とはいえ、売上高は156億500万円、営業損失は27億8100万円と改善の兆しもみられる(図2)。サービス終了の決め手は何か。

 NOTTVはインフラ型サービスのため、設備投資が先行する。注視していたのは、mmbiとジャパン・モバイルキャスティング(インフラ構築会社)の累計のキャッシュアウト。1000億円を超えないレベルで回復する計画を描いていたが、2015年に超えてしまった。加えて、契約数も上向く気配がないことが決め手となった。

図2●mmbiとジャパン・モバイルキャスティングの業績の推移
図2●mmbiとジャパン・モバイルキャスティングの業績の推移
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2015年8月に全国90%のカバー率を達成し、設備投資は一定の区切りがついたはずだが。

 設備投資は一通り終わったが、今後も維持費がかかる。番組の制作費やサービスの販促費、設備の保守費(アンテナ設置場所の賃料を含む)、電波利用料などだ。これらを考慮すると、最低でも300万件の契約数がなければ維持できない。

維持費は、番組の制作費が重荷だったのか。

 当初は様々な番組を制作していたので確かに重かったが、それほどでもない。内訳は番組の制作費と販促費、設備関連で3分の1ずつくらいだ。まずはサービスを試してもらいたいということで1カ月間無料にしていたため、販促費もそれなりにかかっていた。