米セールスフォース・ドットコムは2016年9月、人工知能(AI)を使ったプラットフォームサービス「Salesforce Einstein」(以下、Einstein)を米国で発表した。同社のCRM(顧客関係管理)やマーケティング向けクラウドにAIを組み込み、サービス品質の向上を目指す。同社のパーカー・ハリス共同創業者 兼 最高技術責任者(CTO)に、Einsteinの詳細やこれまでの成果を聞いた。

(聞き手は佐藤雅哉=日経コンピュータ

米セールスフォース・ドットコムのパーカー・ハリス共同創業者 兼 最高技術責任者
米セールスフォース・ドットコムのパーカー・ハリス共同創業者 兼 最高技術責任者
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AIプラットフォーム「Einstein」で、どのようにサービスが変わるのか。

 当社は、2016年10月に米国で開催した「Dreamforce」でEinsteinを披露した。今では、当社の全ての製品にAIを組み込んでいる。我々は技術開発と同時に、2015年以降10社のAI関連企業を買収した。Einsteinの目的は、「誰にでも使いやすいAIを提供する」ことだ。個別にAIサービスを提供するのではなく、セールスフォース・ドットコムのプラットフォームに組み込んでCRMのサービスとして提供する。

 例えば、ある商品を営業・販売するときに、リードスコアリング(見込み客の点数化)にAIを使える。カスタマーサービスなら、コールセンターで最適なスタッフを探すのにAIが役立つ。マーケティングであれば、例えばキャンペーンのROI(投資利益率)を高めるために、顧客のターゲティングなどに利用できる。

 セールスフォース・ドットコムではAIエンジニアも積極的に採用している。「AI分野の最先端になる」という目標から、エンジニア達と「Salesforce Research」という研究開発組織を2016年9月につくった。それを率いるのがリチャード・ソーチャーで、チーフサイエンティストとしてAIの新しいアルゴリズム開発などに取り組んでいる。

実際にEinsteinを使って成果が出た事例はあるか。

 マーケティングにAIを活用する事例では、契約を結べる可能性の高い顧客へ優先的に営業をかけることで効果を上げられる。例えば、旅費比較サイトを運営する米フェアコンペアがAI(Einstein)で売り上げを13%、ROA(総資産利益率)を33%改善した。米ショップアットホームという企業では、マーケティングクラウドの予想スコア機能にAIを適用して、eメール開封率が30%増加した。こうした事例は、今後増えていくだろう。

 当社が2016年7月に買収した米デマンドウエアもEinsteinをeコマース向けクラウドに組み込み、売り上げを増加させた。リードスコアリングですぐに効果が出たため、利用企業からも非常に好評だ。

 具体的にどのような機能を使うことで売り上げが上がったのか。

 例えば、営業ではそれぞれの見込み客のリストを持っているが、その中で誰に狙いを定めて、誰に電話やメールをすれば良いかといったことをAIが判断する。Einsteinの機械学習モデルを見込み客リストへ使えば、どの見込み客が“顧客”になるかを予測できる。例えば「このリードは50%、60%、70%」といったように点数化して、その点数順にリストを並べ替えて、確率の高い顧客からアプローチできるといった仕組みだ。

 Einsteinは機械学習モデルをすぐ使える形になっていて、データを入力するだけでよい。点数の順にリードを並び替える操作はワンクリックで済む。リードを自動で管理する機能では、出てきたリードのスコアを他のリードの属性に応用することも可能だ。可能性の低いリードは、マーケティングの対象にしない設定にもできる。