金融業界、インターネット業界の双方を知る人材は今でこそ珍しくはない。
だが、今より10年以上前、インターネットの可能性に魅せられ業界の垣根を飛び越えた人物は少ない。
青柳直樹氏。4年間勤務したドイツ証券を飛び出し、まだベンチャーだったGREEに参画。
CFO(最高財務責任者)としてGREEを上場へと導いた後、米サンフランシスコに拠点を置いたGREE InternationalのCEO(最高経営責任者)として、グローバル事業を率いた。
だが、2016年9月にGREE取締役執行役員常務を退任して以降、約1年間、表舞台からは姿を消していた。
2017年11月、フリマアプリを手掛けるメルカリは、金融事業を手掛ける子会社メルペイの設立を発表。招へいした代表取締役の名を見た多くの人は驚いた。
FinTechという、おあつらえ向きな業界に青柳氏は戻ってきた。
メルペイが描く構想を日経FinTechに初めて語った。
メルカリが設立した金融関連の新規事業を手掛ける100%子会社「メルペイ」。その代表取締役に就任したのが青柳直樹氏だ
メルカリが設立した金融関連の新規事業を手掛ける100%子会社「メルペイ」。その代表取締役に就任したのが青柳直樹氏だ
(撮影:陶山 勉、以下同)
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約1年の休息期間を経ての復帰だが。

 ドイツ証券に4年、GREEに10年半在籍して、しかも途中は米サンフランシスコに単身赴任していたので、この1年は家族中心の生活をしていた。家族内でのパパとしての地位も再び上がってきたので、そろそろ世の中に貢献しなければという思いが強くなってきた。

 この1年、GREEを辞めて心の整理をする時間が持てた点は大きい。いい経験をさせてもらったなという思いがふつふつと沸いてきた。成長していく企業での経験は貴重だったし、米国に挑戦するという経験も代えがたい経験だった。GREEを辞めることも自分にとっては大きな決断だったし、辞めてからもGREEのことを考える自分がいた。でも、この経験を忘れないうちに、次のチャレンジに生かしていかなければという思いも募っていった。

なぜメルカリに参画し、メルペイの代表に就いたのか。

 まだ38歳だ。メルカリのこうしたステージで挑戦を共にできる機会は魅力的だ。メルカリの山田進太郎会長兼CEOから声をかけてもらったのはGREEの取締役退任が発表された2016年8月。それから2カ月に1回くらいのペースで会っていた。当時からメルペイの構想は聞いてはいたが、より内容が固まってきたのは2017年夏ころからだ。最終的に入社を決めたのは(メルペイ設立の)発表の1週間前だ。

 米国に住んでいたときにFinTech業界でウォッチしていたのは米ストライプや米スクエアだ。だが、2017年8月に中国・上海を訪れて衝撃を受けた。メルカリの山田会長も一緒に行くことになり、一緒に現地を見て回った。3日間、WeChat PayやAlipayを体験しながら衝撃を受けたのは、米国を越えて中国が最も進んでいるという事実。正直、これまでは米シリコンバレーを見ながらテクノロジーやサービスのトレンドを考えることが多かった。

 特に学ぶものが多かったのはAlipayだ。決済だけにとどまらず、ウォレットを中心とした非常に使い勝手のいい金融サービスアプリになっている。メルカリには強大なユーザー基盤があり、日々のトランザクション(取引)がある。これらをベースに金融ビジネスを手掛けるというのは非常に筋がいいと感じた。そして、これは米アマゾンらがやってきたことでもある。