丸山 範久
丸山 範久
日本商工会議所 総務部副部長

 インターネットの普及によって企業と消費者の接点が拡大した結果、大企業に限らず中小企業でもビジネス活動で個人情報を活用する場面が大きく広がっている。顧客管理やマーケティングの面でさまざまな利便性が得られるようになった半面、ひとたび情報が漏えいすると大きな損失につながりかねないリスクを抱え込んだ状態にある。膨大な損害賠償金が必要になることもあるし、信用の低下を招いて経営危機に陥ってしまう恐れもある(図1)。

 2014年に、ベネッセホールディングスが顧客情報の流出の対応・対策のために260億円もの特別損失を計上したことは記憶に新しい。これは流出した情報の数が約3504万件と極端な例だが、一般的に起こりがちな情報漏えいでは、どれほどの損失を被るのか。ある企業の実例で確認してみよう。

図1●個人情報の漏えいは企業活動へ大きな影響を与える
図1●個人情報の漏えいは企業活動へ大きな影響を与える
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 この企業では、自社従業員が顧客情報(氏名・年齢・性別・住所などを記載した名簿3000人分)を不正に持ち出して転売してしまった。身に覚えのない業者からの電話勧誘を不審に思った顧客からの通報によって漏えいが発覚した。直ちに謝罪広告などの対応を行ったが、情報が漏えいした顧客の一部(1000人)から、「執ような電話勧誘によりプライバシーを著しく侵害された」として損害賠償請求を提起された。

 その結果、実害が大きいと判断された300人に対しては1人当たり約10万円、その他の700人に対しては1人当たり約1万円を損害賠償金として支払うこととなった。残りの2000人に対しては見舞金として1人当たり500円、合計100万円を支払った。このほかにも、全国紙に謝罪広告を掲載するための費用として500万円、弁護士費用が200万円かかった。一連の対応に要した費用の総額は4500万円にも上ったのである(図2)。

図2●3000人分の顧客情報の流出で約4500万円の損失が発生
図2●3000人分の顧客情報の流出で約4500万円の損失が発生
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