電動車いすを手がけるWHILL(ウィル)は、2018年夏にも欧州に進出する。2018年1月10日(米国時間)、米国ラスベガスで開催中の家電見本市CESで、杉江理CEO(最高経営責任者)が明らかにした。日本と米国で展開する同社は、欧州の展示会に出展するなど市場調査を進めていた。「日本や米国と同様の市場があると分かった。国の数が多いため、どの国からどのように、という難しさはあるが参入する価値は十分にあると判断した」(杉江CEO)という。

 WHILLはCESに合わせて、米国向け普及価格帯の「WHILL Ci」を発表。すでに日本国内で2017年夏に発売している「モデルC」の仕様をベースにしたもので、米国で3999ドルで発売する。発売済みの「モデルA」に比べて半額程度に抑えた。

今後は、電動車いすのシェアリングサービスなども提供

米国で発売になった「モデルCi」に乗る杉江理CEO
米国で発売になった「モデルCi」に乗る杉江理CEO
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 同社の電動車いすは、累計1000台以上を販売している。2017年夏のモデルC発売以降も数字は順調に推移しているといい、「累計販売台数を1桁増やせる勢い」(杉江CEO)と話す。

 同社は今後、電動車いすを利用したシェアリングサービスなどの提供にも注力する。例えば、スマートフォンから電動車いすを好きな場所に呼び出し、移動してそのまま乗り捨てできるといったサービスを自ら提供するイメージだという。事業の2つめの柱に位置付け、「インフラモビリティ」事業として注力する。インフラモビリティサービスを前提とすると、位置情報やバッテリー残量などを踏まえた車いすの自動走行機能が欠かせない。「ハードウエア、ソフトウエア両面の準備が必要」(杉江CEO)としており、事業化は2019年を目指すという。

「何」で移動するかを気にしない時代に

 WHILLのような新興企業が、モビリティ市場に参入する一方、大手自動車メーカーも「移動手段の主役」になろうと躍起だ。今年のCESでは、トヨタ自動車を始め、米フォード・モーターなどが、メーカーからの脱皮をはかっている姿勢が目立つ。9日、CESの開幕基調講演に登壇したフォードのジム・ハケットCEOは、「Living the Street」というコンセプトを打ち出した。「車同士のみならず、交通手段や人や建物とすべてがつながり、一方でそれぞれが自立している状態にする。移動と交通手段を都市に融合させる」と話した。そして「我々がその中心でありたい」と意気込んだ。トヨタもCES開幕に先立って記者発表会を開き、米アマゾン・ドット・コムとの提携を発表。プラットフォーマーとしての存在感を示そうとしている姿が印象的だった。

 メーカーは異なれど、各社が目指すゴールは「移動手段を再構築する」ことに向かう点では共通している。WHILLの杉江CEOは「今後、道路という概念が失われていくはず」と話す。「車道と歩道は、危険性の違いから決められた概念。自動運転が可能になり歩道にも車道にも安全な自動運転のモビリティが走るようになれば、そもそも危険がなくなっていく。人もモビリティも同じフィールドを移動するようになり、両者の境界は溶けていく」(杉江CEO)。

 利用者は、「何」で移動するのかより、「どう」移動するのかを重要視するようになってきた。「なぜ移動するのか」「誰と行くのか」「価格はどれくらいか」「距離はどうか」――。こうしたことを踏まえて適切な移動手段を得られればよいわけで、何に乗るかはあくまで手段に過ぎない。WHILLのような電動車いすメーカーも自動車メーカーも、目指すべき場所は同じ。その中で、競争と協働のバランスをどうとっていけるかどうか。次世代モビリティの覇権を握る鍵は、そこにある。