「ITインフラテクノロジーAWARD」の5人の審査員が選んだ、ユーザー企業が2018年に注目すべき14のITインフラ技術。人工知能(AI)関連技術に新型データベース、さらに働き方改革を促進する技術と幅広い。注目株のポイントをそれぞれ解説する。

AIプロセッサー

 機械学習/深層学習の学習を高速化する専用プロセッサー。一般的なCPUよりも並列処理による数値計算に特化して性能を高めている。米エヌビディアの「Volta」、米グーグルの「Cloud TPU(Tensor Processing Unit)」、米インテルの「Nervana Neural Network Processor」などがある。

 グーグルのCloud TPUは、180テラFlops(毎秒180兆回)の演算が可能。高速なネットワークを搭載し、TPU同士を相互接続できる。64個のTPUを相互接続した「TPUポッド」では、11.5ペタFlopsの演算性能を実現する。

AIプロセッサーの例(米グーグルの「Cloud TPU」)
AIプロセッサーの例(米グーグルの「Cloud TPU」)
(出所:グーグル)
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GAN (Generative Adversarial Networks)

 訓練データを学習し、それらのデータと似た新しいデータを生成する「生成モデル」の一種。米グーグルに所属する機械学習の研究者であるイアン・グッドフェロー氏が考案した。学習用データをAIに自ら生成させることで、機械学習用のデータを大量に用意する手間や時間を削減できる。医薬分野など大量のデータを集めにくいケースにも、機械学習を応用しやすくなる。

 具体的には、2種類のニューラルネットワークを利用する。一方が候補データを生成し、もう一方が生成された候補データを評価し、その結果を生成側にフィードバック。二つのニューラルネットワークが相互に学習することで、精度の高いデータを生成できる。「ゲーム業界などで採用が進んでいる」(楽天の森氏)。

音声認識

 人間の音声をテキストに変換する技術。スマートスピーカーのような対話型UIのシステムを構築するための中核技術の一つ。最近は学習済みクラウドAIのサービスメニューとしてAPIを介して利用できるようになってきた。「コールセンター業務で、会話内容にコンプライアンス(法令順守)の問題がないかどうかをチェックする用途でのニーズが高まっている」(楽天の森氏)。

グラフデータベース

 NoSQLデータベース(DB)の一種。人や物などのノード同士のつながり、関係をグラフ構造で表現する。主な製品にはオープンソースソフトウエア版と商用版の両方がある「Neo4j」、米オラクルの「Oracle Spatial and Graph」などがある。

 RDBであれば大量の結合が必要で処理が遅くなる複雑なデータを扱う用途に向く。例えば、ネット通販のレコメンド機能、地図の経路探索などである。さらに、富士通が独自のAI技術体系「Jinrai」において中核技術の一つとしてグラフDBを取り込むなど、用途が広がりつつある。

超広域分散データベース

 世界中のデータセンターにまたがってデータを分散配置するDB。米グーグルの「Google Cloud Spanner」、米マイクロソフトの「Azure Cosmos DB」、米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の「Amazon Aurora Multi-Master」などがある。

 世界中の複数の拠点にデータを分散保存し、どの拠点のDBもマスターとして動作する。国内拠点のユーザーは国内のデータセンターにアクセスすればよいため、遠隔値のデータにアクセスする際の遅延の影響を受けにくくなる。複数拠点にデータを保存するため、ディザスタリカバリー対策にも適する。