海中だけでなく空からの映像を漁業に活用する動きも出てきた。佐賀県有明海漁業協同組合とIT企業のオプティムらは2017年3月から固定翼ドローンやIoTを活用してノリ養殖場を監視するシステムの実証実験を進めている。病気や赤潮の発生をITを使っていち早く発見し、品質の向上や漁師の作業負荷軽減に役立てる狙いだ。

有明海のノリ養殖場
有明海のノリ養殖場
(出所:オプティム)
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ドローンで「ノリ網」を撮影

 利用する固定翼ドローンは全長1.6メートル、幅3.6メートルほど。飛行距離は最大28キロメートルという。このドローンを複数機飛ばし、海面の「ノリ網」を撮影する。撮影した動画をオプティムの提供するクラウドに蓄積して画像処理により分析。ノリの育成に影響する病気や赤潮などの発生場所を特定する。この情報をリアルタイムに漁業関係者へ伝えることで早期対策につなげる。分析結果は可視化ツールの「Fishery Manager」を通じてPCやスマホなどから参照する仕組みだ。

 センサーを積んだ「ICTブイ」が海上で取得したデータもFishery Managerに集める。同漁協の江頭忠則専務理事は「ノリが健康に育つには10~15度の海水温と適度な塩分濃度が条件。塩分濃度が低下すると成長が遅れ、病害などに遭いやすくなるため早急な対策が必要になる」と説明する。

病気や赤潮を早期発見
病気や赤潮を早期発見
ノリ養殖IoTシステムの概要(写真・画像提供:オプティム)
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 漁業者の手間も減る。海面に浸かるノリ網は幅1.5メートル、長さ18メートルの帯状で、ノリはここで成長する。養殖場は36×54メートルほどの「区画(小間)」単位で存在し、1区画にノリ網が10枚並ぶ。佐賀県に面した有明海にはこの区画が約3万あり、多くの漁業者は複数区画を所有している。ノリの育ち具合や病気の状況を確認するには船で各区画を見回る必要がある。面倒なのは所有する複数区画が1カ所に固まっていない点だ。同漁協は公平を期すために各区画の割り当てを年1度の抽選で決めている。区画によってノリの育成具合が異なるからだ。

 漁業者は海に出るばかりでなく、水産加工の仕事を掛け持ちする人も多い。江頭専務理事は「ITで見回りが省力化されれば、漁業者は他の仕事に割く時間を増やせる」と期待する。

佐賀県有明海漁業協同組合の江頭忠則専務理事
佐賀県有明海漁業協同組合の江頭忠則専務理事
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