連載第2回は、ブロックチェーンをエンタープライズビジネスに適用するためのアプローチについて解説する。ブロックチェーンがビジネスにもたらす価値をいくつかのパターンに分類して紹介したうえで、特にサプライチェーン分野を例にした有望な業務モデルを提案する。

 ブロックチェーンをビジネスに適用する優れたユースケース(ある目的の達成に向けたシステムとユーザーの振る舞い)を見出すには、顧客価値の視点でブロックチェーンの革新性を熟考した上で、イノベーションを起こす時と同様のアプローチで設計・開発を進めていくことが肝要である。

 例えば、組織のなかで革新的な製品やサービスを企画する方法論の1つとして「デザイン思考」が知られている。この方法は実現技術(ここではブロックチェーン技術)に対して、技術的要素やコスト効果などの現行のビジネス領域からユースケースを発想するのではなく、顧客価値を創造する典型的なパターンを列挙した上で、業務的な視点からユースケースを発想するものだ。

 具体的には、「非中央集権」や「耐改ざん性」「透明性」といった技術的な特長を抽象化した状態でユーザーに提示し、ユーザーにとっての価値をいくつかのパターンに分類する。エンドユーザーやその業界に精通したフィールドエンジニアは、分類されたパターンを参照することでブロックチェーンが分かった「気に」なり、新たなユースケースや詳細の具体化を進めることができるようになる。

ブロックチェーンのユースケースをデザイン思考で考える
ブロックチェーンのユースケースをデザイン思考で考える
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 以下、ブロックチェーン技術に即して日立製作所研究開発グループが2017年10月に無償公開したユースケースの「パターンブック」を紹介する。特定の開発プロジェクトに限定せず、広くビジネスユースケース開発の一助となることを期待したものだ。

 パターンブックは全11種類のユースケースパターンを記述しており、それぞれブロックチェーンの特長を生かすことで創出できるエンドユーザーの価値を紹介している。ユーザーとサービス事業者、IoT(Internet of Things)センサー機器などの関係を仮定し、将来実現できそうなユースケースを明らかにしている。

ブロックチェーン技術に即したユースケースの「パターンブック」
ブロックチェーン技術に即したユースケースの「パターンブック」
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 ここからは、ブロックチェーン技術の有望な適用先の1つとして注目されるSCM(Supply Chain Management)への適用にフォーカスして、適用業務モデルの考え方や価値について紹介しよう。

 ブロックチェーン技術は「非中央集権型」でかつ「改ざん耐性」に優れた技術として知られている。SCMの領域においては、既存の業務-業務、業務-システム、システム-システム間といった、従来の業務システムでは埋もれがちとなっていた「際(キワ)」の部分をうまく繋ぎ合わせるソリューションとしての活用が適していると考えられる。