2017年のFinTech業界のランキングから見えてくるトレンドをやや強引にまとめれば、「メガバンク動向」「ブロックチェーン動向」「仮想通貨動向」の3つといえる。
早速、メガバンクの動向から見ていこう。
年始に注目を集めたのは三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)によるパブリッククラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」への移行だろう。これまで他業種と比べてクラウド活用に対し消極的と思われてきた金融業界。それだけに、MUFGが本格的な活用に舵を切ったインパクトは大きく、「三菱UFJがパブリッククラウド『AWS』採用、国内メガバンクで初」が8位にランクインした。
また、メガバンクの子会社設立の動きも目立った。2017年4月に施行された改正銀行法で出資規制が緩和されたことにより、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)が認可第1号として生体情報技術に強みを持つアイルランドのダオンおよびNTTデータと5月1日、合弁会社を設立した。一方、みずほ銀行は投資ファンドのWiLや伊藤忠商事、損害保険ジャパン日本興亜などとBlue Labを設立。8月に事業を開始した。FinTechやシェアリングエコノミー、人工知能(AI)といった先端ITを活用した事業を念頭に置くという。
子会社設立の目的は銀行によって様々。だが、金融以外の事業に出やすくなったり、銀行本体と比べて迅速に意思決定できるなどのメリットが大きいようだ。こうした動きは注目を集め、10位に「銀行ではイノベーションできない!?みずほ銀がIT会社を新設した理由」がランクインしたほか、「IT会社新設ラッシュ、メガバンクの目論見」も19位にランクインしている。
ブロックチェーンの動向では、業務用ブロックチェーンの乱立を描いた「業務用ブロックチェーンが百花繚乱、激しさ増す本命争い」が4位にランクインしたほか、The Linux Foundationによるブロックチェーンのオープンソースソフトウエア(OSS)開発プロジェクト「Hyperledger Project」がリリースしたブロックチェーンソフト「Hyperledger Fabric v1.0」に焦点を当てた「『ブロックチェーン版Linux v1.0』は世界を変えられるか」が5位にランクインした。
また、ブロックチェーンを俯瞰し、抱えている問題を指摘した記事も読まれた。13位にランクインした「『ブロックチェーンは思うほど早くは来ない』、MITメディアラボ所長が語った未来」では、米MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏がインターネットと比較した場合、現在のブロックチェーンには「レイヤー化」が欠けている要素と指摘。ブロックチェーンがインターネットのようなインフラとして成熟するには、EthernetやTCP/IP、HTMLのような「しっかりした基盤」(伊藤氏)を作った上で、契約などのプログラムレイヤーを構築すべきだと主張した。一方、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏が量子コンピュータの発展によって、「ブロックチェーンを支えている暗号化技術が破られてしまうと考えられている」と警鐘を鳴らした「量子コンピュータはブロックチェーンの脅威になる」も16位にランクインした。
最後に仮想通貨の動向だが、やはり話題として上ったのは今夏、業界が固唾を飲んで見守ったビットコインの分裂騒動だろう。17位に「危機は回避できるのか? ビットコイン分裂騒動を整理する」がランクインした。2017年後半になって国内でも盛り上がってきたICO(Initial Coin Offering)に関する記事、「あらゆる通貨を交換可能に、2時間半で170億円を集めたベンチャーの野望」も20位に入った。
ランキング1位に輝いたのは「カード再発行で実感した日本のFinTechの問題点」で、野村総合研究所(NRI)理事の楠真氏が財布を紛失して各種カードの再発行に苦労した話。7位にランクインしたのは日経FinTechの記者が同様に財布を紛失して再発行の苦行に身を投じた「FinTech記者の醜態、現金20万円を落とす」だ。やはり人の不幸は蜜の味なのか、両記事ともによく読まれ、10位内にランクインしている。
年末年始は人ごみでのスリ被害が多発する。紛失したらどのくらい無駄な手間と時間をかけさせられるのかをいま一度両記事を読んで噛みしめていただき、くれぐれも注意してほしい。