旅行中、荷物を持ち歩くのが面倒に感じたことは多いだろう。そんな煩わしさを解消してくれる新サービスが登場した。ベンチャー企業のecbo(エクボ)が提供する荷物預かりサービス「ecbo cloak(エクボクローク)」である。荷物を預かるのは、街中にあるカフェや美容室などの店舗。荷物を預かれる場所がある店と、荷物を一時的に預けたい人をマッチングする、「空きスペース」のシェアリングサービスである。ecbo cloakはJR東日本のベンチャー育成プログラム「JR東日本スタートアッププログラム」で審査員特別賞を受賞して、注目を集めている。

 このサービスが短期間で軌道に乗ったのは、荷物を預かってくれる空きスペースを持つ店舗の協力をうまく取り付けられたからだ。2017年1月にサービスを開始して以来、預かり所となる店舗数は増え続け、1年足らずで東京や京都、大阪などを中心に、約1000カ所の「預かり所」を設けた。ecbo自身は資産を持たず、他社の空きスペースという遊休資産を活用することでビジネスを拡大させる手法は、米ウーバーテクノロジーズや米エアビーアンドビーのやり方と同じである。ecboは荷物の預かりサービスで独り勝ちを目論む。そのサービスを詳しく見ていこう。

「店舗にリスクなし」を強調し、空きスペースを確保

 ecboの工藤慎一社長がecbo cloakのアイデアを思いついたのは、わずか1年ちょっと前の2016年8月のことだ。訪日外国人のためにコインロッカーを探した経験がきっかけである。駅前で探しても、なかなか空きが見つからなかった。「東京の繁華街である渋谷駅周辺ですら、コインロッカーは約1400個しかない。そのうち、スーツケースが入る大型のロッカーは90個程度と極端に少ない。訪日外国人の多くは荷物を預けられずに困っている。そこで街中の店舗の空きスペースを預かり所代わりに使うことを思いついた」と明かす。

 そこからの動きは早かった。発案から3カ月でWebサイトを構築。その後、5人程度の従業員でひたすら店舗訪問を続け、まだ存在しないサービスへの協力を取り付けていった。こうして2017年1月には100カ所の「預かり所」を整えてサービスを開始した。日本語のほか、英語、中国語などの多言語に対応したWebサイトにしたことで、利用者の7割は外国人になった。料金はどの預り所でも均一で、バッグサイズが1日300円、スーツケースサイズが1日600円だ。ただし、JR東日本と期間限定で東京駅構内で実施している実証実験だけは例外。荷物の大きさにかかわらず、一律800円に設定している。

 ecbo cloakのサービスの流れはこうだ。荷物を預けたい人はスマートフォンから場所と時間を指定し、「預かり所」となる店舗を検索。候補の中から場所を指定して予約する。当日、指定した時間に預かり所に出向き、店員にはスマホの予約画面を見せる。これだけだ。利用者と店舗の間で、料金のやり取りは発生しない。支払いは、利用者が事前に登録したクレジットカードに限定している。利用者に代わって、ecboが預かり所の口座に代金を振り込む。

ecbo cloakの画面
ecbo cloakの画面
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 荷物を預かった店では、店員がスマホで荷物の写真を撮影し、預かり所向けのWebサイトにアップする。これで荷物の預け入れは完了だ。確かに預かったという証拠写真は、利用者の画面にも表示される。利用者が荷物を引き取るときも、スマホの予約画面を再度見せるだけでよい。

 サービスを開始するに当たって、ecboは預かり所の開拓を最優先した。預かり所になってくれる店舗の手間は徹底的に排除し、「ほぼノーリスクで売り上げを伸ばせる仕組みを用意した」(工藤社長)。