「うつ病患者の職業は、SEが際立って多い」。こう話すのは、メンタルヘルス専門の成城墨岡クリニックの墨岡 孝医師(院長)である。墨岡医師は、SEは多忙で納期に追われ、精神的に追い込まれやすいのが原因と見る。

 約20人の運用チームを率いるユー・エス・イーの石田 武氏(技術営業本部 システムソリューションサービスグループ グループ長代理 )は、メンバーのうつ病に悩まされてきた。「特に運用業務は減点主義になりがちで、できて当然とみなされ、できないと叱られる。納期が厳しく仕事は次々に舞い込んでくる」(石田氏)と、うつ病を引き起こす原因がいくつもあると話す。実際、こうした状況下でうつ病となり、現場を離れたメンバーもいた。

 そこで石田氏が始めたのが、メンバーの異変をつぶさに記録することだった。

メンバーの異変をつぶさに記録
メンバーの異変をつぶさに記録
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 これは、うつ病の予兆となる異変(普段との違い)を週次報告書に記録するもの。メンバー一人ひとりの様子に目を配り、勤怠や言動などの異変を週報に記録する。さらに、一人ひとりの状況を見て、仕事量を減らしたり、仕事の内容を変えたりしている。

 記録を見て異変が目立つメンバーに対しては、「変更要求や障害対応といった問題解決型の仕事を減らして、資料作成や調査といったオペレーション型の仕事を割り当てる」と石田氏。メンバーの精神的な負担をできるだけ軽くする配慮だ。

勤怠・生産性・身なりなどで察知

 メンバーの異変を記録する際に悩むのは、何をうつ病の予兆として捉えるかだろう。これについて臨床心理士の松山公一氏(富士通 健康推進本部 メンタルヘルスサービスセンタ マネージャー)は「早退・遅刻」「パフォーマンス」「言動」「身なり」の4項目があるという。

 言動とは、急に怒り出したり、大声を上げたりするケース。身なりについては「服装や髪型がだらしなくなったり、何となく不潔な感じになったりした場合は注意したい」(松山氏)。異変を察知したら、早い段階で対策を打つ必要がある。

 難しいのは、異変を感じたメンバーに対して、どうやって病院に行ってもらうかだ。富士通で健康推進の指揮を執る三宅 仁医師(常務理事 健康推進本部長 富士通クリニック院長)は「うつ病の可能性があるから病院に行ったほうがいいとむやみに勧めるのは避けるべきだ」という。「病人扱いにする気か」と急に怒り出すケースがあるからだ。