2018年に本格運用を開始する日本版GPS「みちびき」は、スポーツの世界においてもITの活用効果を高めようとしている。例えば、アスリートの競技のレベルアップという効果が期待できる。
アシックスが2016年の神戸マラソンで、ある実験をした。3時間を切るタイムを出すコーチ役のトップランナー2名にみちびきの受信機を装着して走ってもらい、位置に関するデータを取得。それを実験に参加した後続のランナーが装着したスマートウォッチの画面に配信するというものである。スマートウォッチには、情報を受信する「専用コーチングアプリ」をインストール。コース上の7カ所に設置したWi-Fiルーターから、アプリに先行するコーチ役のランナーに関する情報を送信した。
居場所ではなく「レースのコツ」を伝える
位置に関するデータとは、先行するコーチ役のランナーがコース上のどこにいるかではない。実験区間において、道路上のどこを走ったかという「コース取り」だった。こうしたデータは、数mレベルの誤差が出るGPSによる測位で作成することは困難だ。
アシックスは、早いタイムで走るランナーのコース取りという情報が、後続のランナーにどのような恩恵をもたらすと考えたのだろうか?
この実験の対象として選んだのは、JR神戸線の鷹取駅近辺にあるカーブが5カ所続くおよそ300mの区間である。コーチ役のランナーは上手なコース取りにより最短距離でここを駆け抜けたのかというと、実は後続ランナーと1.2mの差しかなかった。
明らかな差は、加減速の回数だったという。カーブが1カ所だけの場合は、外から中に入ってまた外へ抜けると楽。だがこの場所はカーブが連続しているため外、中、外が最適解ではない。後続ランナーはカーブの内側に入る意識が強く、カーブ手前で減速するため、この区間で3回加減速をしたという。