一度のプロジェクト成功で満足してはいけない。新しい体験、サービスを繰り返し創れる環境が整ってこそ、本当の成功といえる。現場でデザイン思考を生かし続けるための裏技を解説する。
1. つまずきを棚卸しする
2. 活動を恒例行事にする
デザイン思考を生かすプロジェクトのつまずきやすいポイントと、それを乗り越える「裏技」を紹介する本連載もいよいよ最終回である。前回までにデザイン思考の全フェーズの裏技を紹介した。これらの裏技を駆使しながら全てのフェーズをたどったことで、新しい体験、サービスを創り出せた。そのサービスは、社内・社外を問わず評判を呼んでいることだろう。
ただ、1回の成功で満足していてはもったいない。今後も繰り返し新しい体験、サービスを生み出せる状況を整えていきたい。そこで最終回は、繰り返し創るための裏技を紹介しよう。
裏技1
つまずきを棚卸しする
秋山たちのプロジェクトがついに完了した。途中、つまずいた場面はいくつもあった。それでも全てを乗り越え、介護施設の利用者と介護福祉士との会話を支援するサービスを創り出せた。
斬新で、しかもユーザーの暗黙のニーズに応えたサービスは顧客から高い評価を受けた。社内でも新規事業の成功事例として注目を浴びた。秋山は社内向けに成果を発表する機会に恵まれた。
「…以上のように、いくつもの困難に見舞われましたが、デザイン思考の手法を駆使してチームが一丸となって取り組みました。それが結果につながったのだと思います」
発表を終えた秋山がIT部門の自席に戻ると、上司の千葉がニコニコ顔で迎えた。
「社長賞がもらえるかもしれないぞ」
同僚たちも誇らしげな表情だ。その様子を見た秋山は、達成感に包まれた。
その数週間後。秋山の同期でプロジェクトの頼れるチームメンバーでもあった、事業企画部の別所が秋山のもとを訪ねてきた。何やら浮かない表情だ。
「どうした?」
「嫌な声が聞こえてきてね。多分に俺たちへのやっかみもあるんだろうが…」
別所はポツポツと話した。「デザイン思考の解説書を読んでみたが、フワフワした考えばかりで役立ちそうにない」「例のプロジェクトも結局のところ運が良かっただけだろう」などと話す人たちがいたという。
「うーむ…」
秋山はうつむいた。自分たちはプロジェクトを通じて様々なノウハウを得られたが、そのノウハウはチーム内でしか共有できていない。社内に広まらなければ、デザイン思考を生かすプロジェクトは続かないのではないか。どうすれば広められるのだろうか。
1回目のプロジェクトで得た知見が社内に浸透せず、後に続く活動に全く生かされない。そんな状況では2回目以降のプロジェクトでも1回目と同じフェーズで同じようにつまずいてしまう。新しい体験、サービスを立ち上げるプロジェクトの知見を、いかに社内に共有できるようにするかは重要な課題である。
フェーズごとに「KPT」を書き出す
そこで取り入れたい裏技が、「つまずきを棚卸しする」である。プロジェクトでのつまずきなどの経験から得た学びを棚卸しして、体系化する。それをノウハウ集として社内に共有しよう。1回目のプロジェクトの経験をほかの人が習得でき、新たなプロジェクトでデザイン思考を活用する際の足がかりになる。
ノウハウ集は、デザイン思考の「意義付け」から「試行」までのフェーズごとに、取り組む内容や用いる手法などを表形式でまとめると分かりやすい(図1)。図1の例では、本連載で紹介したタスクや実施概要を記載した。あなたが作成するノウハウ集には、実際のプロジェクトで採用したワークショップ手法やワークシートなども記載するとよいだろう。