IoTシステムを構築し、IoTを使ったビジネスを推進する際に欠かせないのがパートナリングだ。IoTは実現に必要な技術や知識の範囲が幅広く、1社だけで推進するのは難しい。複数の企業がタッグを組みながらプロジェクトを進めることが成功への早道だ。

 これまで本連載では、IoT(Internet of Things)向けの通信規格である「LoRaWAN」を利用した地方創生ハッカソンや、風力発電設備のモニタリング、オフィスのIoT化、設備管理のIoT活用による保守サービスの提供といった様々な事例を紹介してきました。そして前回は、これらのIoTを活用したシステムを構築し、ビジネスを推進するために必要なスキルについて調査を基に説明しました。現場の最前線でのIoTの活用や構築について、理解が深まったでしょうか。最終回の今回はIoTビジネスの推進に必須の「パートナリング」について説明したいと思います。

IoTの課題は1社では解決困難

 具体的なパートナリングの解説の前に、なぜIoTにパートナリングが欠かせないのか、その背景を理解するためにIoTビジネス推進上の課題をおさらいしていきたいと思います。

 これまで本連載ではIoTシステムの構築において、従来の基幹システムといった企業向けシステムの構築とは異なる課題があると随所で述べてきました。読者のみなさんは、どのような課題が思い当たるでしょうか。

 一つめの課題は、IoTプロジェクトは「目的や目指す姿が明確でない」という点です。IoTを使ってビジネスを推進しようという企業は、その企業規模も異なり、また目的も、国際競争力の確保であったり、当該産業における構造的な課題の克服であったりと、大きく異なります。そして往々にして、目的が明確でないプロジェクトが多く存在します。

 これらの状況で、自ら十分なアイデアを持っていない場合、どうすればよいでしょうか。先進的な他社のマネをする、他社との協業によって自ら成功経験を積み重ねていく、あるいは他社との協業討議の中で実現したいイメージを確立していく、といった選択をせざるを得ません。自社のみでプロジェクトを推進するのは非常に困難です。

 二つめの課題は、IoTプロジェクトは「PoC(Proof of Concept:概念検証)から小さく始めて大きくする必要があること」です。IoTプロジェクトではまず、PoCを行うことが一般的です。これは、目的が明確でない状態で、かつ予算的な制約も多い初期の段階では小さく始めざるを得ないという背景があります。IoTを推進しようという企業にとって、この段階ではある程度、投資が先行することになります。営業・マーケティングコストなどは持ち出しとなり、小さな試行環境を作るといった工夫が必要となります。

 1社でこうした全ての投資リスクを負うのは、なかなか難しい決断となります。そこでリスクを分散するために複数の企業でPoCに取り組むことが現実的な選択肢となるのです。

 複数の企業でPoCに取り組む場合でも、PoCを実施する段階から「何のために」「どんな課題を解決するために」「どのような姿を目指して」「将来的にはどのような事業計画で、いつ頃から商用化を目指すのか」といったことの概略を決めておく必要があります。プロジェクトに参加する複数の企業で相談しながら合意形成して進めていきます(図1)。

図1●IoTは小さく始めて大きくしながら課題を解決していく
図1●IoTは小さく始めて大きくしながら課題を解決していく
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企業システムの構築ノウハウは通じない

 実際にIoTシステムの構築段階になると、三つめの課題である「既存のシステムの構築アプローチと異なる」という課題にぶつかります。従来型の基幹システムの開発時の考え方が通用しないのがIoTシステムおよびシステム開発のポイントです(図2)。

図2●IoTシステム構築は既存の構築アプローチと異なる
図2●IoTシステム構築は既存の構築アプローチと異なる
従来型の開発やシステムの考え方が通用しないのがIoTシステムのポイントとなる
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 IoTシステムは、1カ所のサーバーに集中することなくローカルに分散配置されたデバイス上のリソースを活用することが前提です。既存の企業システムでは、接続するデバイス数は最大でも社員数程度でしたが、IoTシステムでは圧倒的に多くなります。

 デバイスから上がってくるデータの特性や構造も既存システムと大きく異なります。無数のデバイスから上がってくるデータは断片的なケースもありますし、一方では連続的にストリーミング発生するケースも多く、データの多くが構造化や標準化されていないデータ系列となっています。さらに悩ましいことに、工場のようにノイズなどの発生しやすい環境制約がある現場において、リアルタイムに状況をモニタリングするケースなどでは、データの欠損が当たり前です。

 こうしたIoTシステムの構築プロジェクトの中心となるのは、工場や物流、フィールドサービスなどの現場や事業部門です。開発の手法もプロトタイプを作った後で、それを実運用しながら少しずつ手を加えて目指す姿に近づけていく、いわゆるアジャイル型開発に近い開発手法が採られることが一般的です。

 これらのIoTシステム構築プロジェクトのアプローチは、これまでの企業システムの開発手法とはほぼ逆です。多くの企業システムを構築している企業であっても、ノウハウがないケースが多く、他の企業と協業せざるを得なくなります。

 最後にIoTシステムを構築する際の課題として、「様々な技術レイヤーの組み合せが必要なこと」を挙げておきます(図3)。IoTはセンサーやデバイスから始まります。そのデータをローカルネットワークや広域ネットワークを組み合わせて送信します。さらにデータを蓄積したり、課金・認証を管理したりするプラットフォームも必要です。IoTをビジネスに生かすためには、クラウド上のアプリケーション開発プラットフォームや、業務目的別のアプリケーションも欠かせません。

図3●様々な技術レイヤーの組み合せが必要に
図3●様々な技術レイヤーの組み合せが必要に
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 この時点で、もはや1社でIoTを実現することが難しいのは明らかです。スマートフォンのサービスやアプリ開発などと比べても、IoTシステムの構築は、業種別の幅広い知識や知識の複合が必要です。さすがに自社だけで全てそろえるのも難しいのが現実です。