業務や機能の要件が固まらず不調に陥り、システム再構築プロジェクトを2001年1月に中止。失敗の責任を巡って、互いに訴え合ったのがジェイティービー(JTB)とビーコン インフォメーション テクノロジー(ビーコンIT、現ユニリタ)の事案である。2004年10月、互いに求めていた賠償請求を放棄せよ、という「ゼロ和解」で決着した。

 システム開発プロジェクトでトラブルが起きた場合、その責任の所在を判断するような明確な基準がない――。このことを知らしめた裁判の行方を詳しく報じたのは、日経コンピュータ2004年7月26日号「動かないコンピュータ」。タイトルは「基幹系の再構築が破綻 ベンダーを訴え、現在係争中」(戸川 尚樹=日経コンピュータ)。その内容を全文公開する。



 旅行最大手のJTBは、基幹系システムの再構築プロジェクトを巡るトラブルが原因で、開発を委託したビーコンインフォメーションテクノロジーと互いに訴え合う事態になっている。業務/機能要件を固める作業が進まなかったことが引き金になって、JTBはビーコンITとの契約を解除。訴訟は3年が経過している。

 今年6月7日、東京地方裁判所の第527号法廷では、JTBとビーコンインフォメーションテクノロジー(ビーコンIT)との裁判が開かれた。この日の証拠調べを受けて地裁は、原告と被告から訴訟に至る事情をほぼ聞き終わったと判断し、和解案を提示することを明らかにした。提示は9月の予定。システム開発トラブルを巡って起きた、3年にわたる両社の訴訟がようやく終結する可能性が出てきた。

 JTBがビーコンITに対して、約11億6000万円の損害賠償を請求する訴訟を起こしたのは、2001年7月24日のこと。その後ビーコンITが同年10月12日に、JTBを反訴。ビーコンITは、作業受託料金の未収分など約7億6000万円をJTBに請求した。

 JTBがビーコンITと法廷で争うことになったのは、国内のホテルや旅館の宿泊予約といった基幹業務で使う「ホテル・リザベーション(HR)システム」の再構築プロジェクトが失敗したから。JTBは、新HRシステムを2002年1月に稼働させる計画だった。

 この新HRシステムの開発を請け負ったのがビーコンITである。1999年7月にプロジェクトが始まったものの、業務要件や機能要件を固める作業が進まず、開発作業が難航。2000年春ごろから、遅れが目立つようになった。その後、両社はプロジェクト推進体制を見直すなど対策を講じたが、2000年秋になっても、状況は改善しなかった。さらに2000年末にはJTBとビーコンITが、新HRシステムの開発費用を巡って対立。このころビーコンITは、受注前に見積もった金額の1.6倍以上の開発費用をJTBに請求していた。

 2000年末から2001年1月にかけて、JTBとビーコンITは、開発作業の遅れと開発費用に関して何度か話し合った。だが結局、折り合えなかった。

 2001年1月26日、JTBはビーコンITとの契約を正式に解除する。JTBは新HRシステムの構築を取りやめた。現在JTBは、ハードウエアを入れ替えただけで、従来のHRシステムに若干手を加えて動かし続けている。

 JTBの新HRシステム構築プロジェクトはなぜ頓挫したのか。どうしてビーコンITと法廷で争う事態に至ったのか。本誌が取材を申し込んだところ、JTB広報は「係争中につき、取材に応じることはできない」とし、取材を拒否した。ビーコンITも「裁判所で公開している情報以外に、今話せることは何もない」と回答した。

 本誌は、裁判所で閲覧できる訴状や陳述書、証拠資料、証人調書などを基に、トラブルの経緯と理由を追った。