パッケージソフトの導入プロジェクトで裁判沙汰に発展したのが、日本貨物鉄道(JR貨物)とワークスアプリケーションズのケース。ワークスのパッケージ・ソフトを使った2年ごしの給与システムの開発プロジェクトが道半ばで中止に。支払い済み費用の返還を求めて、JR貨物が2003年7月、ワークスに対して損害賠償請求訴訟を起こした。両社は2005年2月に和解している。

 詳しく報じたのは、2005年5月16日号の「動かないコンピュータ」。当時のタイトルは「給与システム構築を断念しベンダーを訴える」(島田 優子=日経コンピュータ)。その内容を全文公開する。



 日本貨物鉄道(JR 貨物)がワークスアプリケーションズ(ワークス)に対し、支払い済み費用の返還を求めて、訴訟を起こしていたことが分かった。ワークスのパッケージ・ソフト「COMPANY」を使った2 年ごしの給与システムの開発プロジェクトが成功しなかったのが原因だ。両社は2005年2月に和解した。

表 JR 貨物とワークスアプリケーションズ(ワークス)の係争の経緯
表 JR 貨物とワークスアプリケーションズ(ワークス)の係争の経緯
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 日本貨物鉄道(JR貨物)が、ワークスアプリケーションズ(ワークス)のパッケージ・ソフト「COMPANY」を利用した人事システムと給与システムの構築に取り組んだのは2000年11月のこと。人事システムは予定通りに稼働したものの、給与システムの構築が難航。スタートから2年強が経過した2003年3月に、JR貨物は最終的に給与システムの構築を断念した。

 その後JR 貨物は、すでに支払ったCOMPANYのライセンス料とハード、データベース・ソフトなどの合計金額の返還を求めて同年7 月、東京地方裁判所にワークスを訴えた。本誌の取材に対し、JR貨物の総務部広報室は、「ワークスを提訴し、和解したのは事実。守秘義務契約を結んだため、内容は話せない」と回答。ワークスの牧野正幸代表取締役兼最高経営責任者(CEO)も同様に、「和解したこと以外は守秘義務があるので話せない」としている。

パッケージ化でコスト削減を目指す

 JR貨物が構築を計画した人事システムは、社員情報や定期昇給などを管理するもの。給与システムは、諸手当や賞与、定期昇給などを反映して給与を計算するものだ。構築の目的は、人事関連業務の効率化とコスト削減にあった。当時、JR貨物は7 期連続で赤字決算を続けており、コスト削減は全社的な重要事項だったからである。

 しかも、プロジェクトが始まった2000年11月時点で、JR 貨物には人事システムがなく、約8000人の社員情報を担当者が紙の台帳で管理している状況だった。給与システムも、1980年から稼働しているソフトを、改修を重ねて利用し続けている。NEC製のメインフレームで稼働するこのシステムの保守運用には、人件費だけで年間5600万円程度がかかっていた。

 そんなJR貨物がプロジェクトの前提としたのは、パッケージ・ソフトの利用である。「パッケージを使うのは初めて」(JR貨物が提出した裁判資料)だったが、財務状況が厳しいこともあり、業務改革の推進というより構築費用の削減を目的として、パッケージ導入に踏み切ったようだ。

 2000年11月から12月にかけ、JR貨物は5社のベンダーを集めて仕様の説明会を開催。システムの要件やプロジェクトの進め方をまとめた構築工事仕様書という文書に加え、現行の給与システムの仕様書を示し、提案と見積もりを依頼した。

 各社からの提案を受けてJR 貨物はベンダーの選定を進め、2001年4月にワークスと契約した。この時点で人事システムの稼働時期は同年10月1日に、給与システムは翌2002年10月1日にするとJR貨物は決めていた。

ワークスは業務に合うはずだった

 ワークスを選択した決め手は、COMPANYの給与機能の適合率の高さだった。適合率とは、パッケージ・ソフトの標準機能でどこまで業務をカバーできるかを示すものである。同社は旧国鉄の人事制度を引き継いでいるため、給与の計算に特殊な条件が多い。

 提案を依頼する時点で、JR貨物は同社固有の可能性が高い78項目の要件を挙げ、標準機能で実現できるかどうかを聞いた。JR貨物の訴状によると、ワークスは「72項目は標準機能で実現可能。残りの6 項目中3項目はバージョンアップ時の機能強化で、残りの3項目はJR貨物の現行システムで実現する」と回答したという。給与システムへの適合率は単純計算で92.3%である。残りの4 社は50%以下だった。

 ワークスの提示した92.3%という適合率の高さについて、「自社の給与計算業務の特殊性を考えると、本当かどうか不安だった」とJR貨物は裁判の陳述書に記している。とはいえ、パッケージでコストを抑えながらシステムを構築しようとすれば、ワークス以外の製品を選ぶのは難しかった。

 JR貨物は「不足している機能はバージョンアップで取り込む」という趣旨の書面を交わしたうえで、契約に踏み切った。ただし、ワークスの牧野CEOは、「当社の方針として、バージョンアップ時に取り込む機能を、営業担当者が書面で保証することはない」と話している。