開発トラブルを未然に防ぐ最も効果的な対策は、適切な人材を、適切な役職に就けることだ。業務システムの要件定義では、業務知識や業務管理知識を持つ人材の登用がカギを握る。現場からのアラートを受け付ける組織を設け、人格面で優れた人材を当てる工夫も必要だ。優れたプロジェクトチームを作ることが、トラブル防止のなによりの処方箋になる。

 心血を注いだ開発プロジェクトが遅延し、赤字になり、裁判沙汰になったのでは担当者は立つ瀬がない。連載の最終回ではトラブルを防ぐノウハウを、プロジェクトの人選を中心に紹介しよう。

業務管理知識を持つ人材を探す

 第1回でも言及したが、システム開発トラブルで最も起こりがちなのは、業務知識と業務管理知識の重要性をユーザー企業とITベンダーがともに認識していない場合だ。

 ITベンダーの選定プロセスには、「要求書に書いてある言葉の奥深さを知らないITベンダーの見積もり額が最も安くなる」という落とし穴がある。要するに安かろう悪かろうだ。こうした傾向についてユーザー企業の認識が不足し、ITベンダーも甘く見ている場合にトラブルは起こる。

 対策は二つある。一つはユーザー企業が自ら業務を見える化する体制を整えることである。

 まず現状を整理し、捨てるべき業務、追加する業務を整理し、AS IS(現状)からTO BE(あるべき姿)を描く。要件定義フェーズで作成する基本ドキュメントのうち業務関連図、業務機能構成表、業務フロー、業務処理定義書は業務部門が作成することが望ましい。

 ユーザー企業が自らAS ISとTO BEを描くには、業務知識に加えて業務管理の知識や技術を持つ人材が不可欠だ。具体的には(1)現状の業務作業を表現でき、(2)業務方法の問題点を指摘でき、(3)業務方法の分析を基に改善方法を提示でき、(4)新システムの要件定義ができる人材が必要になる。自社で人材が揃わなければ、コンサルタントや業務管理知識に詳しい経験者など外部の知恵と力を借りてもよい。

 もう一つの対策は、システム開発の発注先であるITベンダーの体制を確認し、どのメンバーが業務知識や業務管理知識を持っているかを確認することである。単に「他社の大プロジェクトを担当した経験がある」との一言で過度に信用して任せ、大きな失敗につながった例は数多く存在している。

 具体的には、ITベンダーがプロジェクトチームを編成する際、ベンダーにPAM(Power Analysis Matrix)を作成させ、「どこの技術が不足しているのか」「どう補うのか」を明確にさせる。

図 PAM(Power Analysis Matrix)の例
図 PAM(Power Analysis Matrix)の例
要求スキルと開発メンバーのスキルの差を見える化
[画像のクリックで拡大表示]

 PAMで特に着目したいのが業務知識、業務管理技術、企業文化知識、問題感知力・発想力である。

 これ以外は技術項目であり、ITベンダーの社内で必要な人材を調達しやすい。だがこの4項目については適切な人材が見つかるとは限らない。

 この場合、外部のコンサルタントや協力会社からの支援が期待できないのであれば、そのITベンダーに発注すべきではない。それほど、一次請負先には業務ノウハウが重要なのである。