ある中堅設備機器メーカーは販売管理システムを刷新するため、海外製ERPパッケージの導入を企画した。だが、構築したシステムに現場から不満が噴出。システムは廃棄された。失敗の背景には、日本の商慣習とは合わない海外製ERPの特性がある。

 我々のERP(統合基幹業務システム)を導入すれば、海外企業のベストプラクティスを反映したグローバルスタンダードのビジネスプロセスを実現できます――。

 1990年代から2000年代にかけ、海外ERPベンダーの巧みな宣伝文句によって、多くの日本企業がERPパッケージの導入を進めた。ところが、こうしたERP導入プロジェクトでトラブルが多発している。

 代表的なトラブルは本連載の前回、国産ERPパッケージの導入で紹介したのと同じく、カスタマイズが多発して当初予定よりも導入費用が膨れ上がるトラブルである。

 実はこれ以外にも、プロジェクトが途中で頓挫し、多額の特別損失を計上せざるを得なくなってしまうケースをよく目にする。

 海外製ERP導入のプロジェクトが途中で頓挫する理由は、海外製ERPが国内企業の業務に合わないことが多いためだ。2015年9月にシステムの開発中止により56億円の特別損失計上を発表した鉄鋼メーカーの事例は、その典型といえる。

 今回は、海外製ERPパッケージの導入を途中であきらめた、ある設備機器メーカーの事例を紹介する。本事例は日本企業が海外製ERPを活用することの難しさをよく表している。

図 設備機器中堅メーカーが陥ったシステム開発トラブル
図 設備機器中堅メーカーが陥ったシステム開発トラブル
海外ERPパッケージの導入プロジェクトが中断、システムは廃棄へ
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きっかけはミドルウエア企業の買収

 海外製ERPパッケージの導入を企画したのは、ビルなどに置く設備機器の中堅メーカー(A社)である。

 A社はビル建設の元締めであるゼネコンや設備工事業者(サブコン)から依頼を受け、設備機器の設計、製造および設置工事を手がけている。

 新築工事だけではなく、古くなった設備の更新工事や設備の保守作業を担っている。対象となるビルの大きさによって、標準機器を組み合わせて納入するケースと、特別に設計した大規模な設備を納入するケースがある。設置工事は、A社が外注業者を使って施工することが多い。

 同社の販売管理システムは、もともと国産のメインフレーム上に作られていた。1990年代後半、いわゆる「2000年問題」をきっかけに、国内大手ベンダーB社からの提案によりオープンシステムに置き換えた。

 メインフレーム上で販売管理システムを稼働させていた時代は、A社の中にはシステム開発できる情報システム要員が残っていた。ところが、情報システム要員が定年で相次いで退職したことで、プログラミングのできる情報システム要員は、1990年代後半の時点でほとんどいなくなった。このため、オープンシステム上の新システム開発は大手ベンダーB社が主体となって行った。

 今回、海外製ERPの導入を検討することになったきっかけは、A社がオープンシステムの基盤として採用していていたミドルウエアの開発元が、他社に買収されたことだった。このミドルウエアはB社が扱っていた製品で、B社から納入されたものだ。

 大手ベンダーB社からは、ミドルウエアは現状のままであれば何とか使い続けられるが、今後のWindows OSやOracle Databaseのバージョンアップには追随できない可能性が高い、との説明を受けた。A社はこの機会に、新システムに移行する検討を始めた。

グローバル標準の業務改革を模索

 新システムの検討は、A社の取引銀行から出向してきた役員が中心となって進めた。

 この役員は自身の存在をアピールするためにも新システムの入れ替えに力を入れ、自ら進んで社外に話を聞きに行った。その時に役員が出会ったのが、大企業でブームとなっていた外資系C社のERPパッケージである。

 役員は以前からA社の昔からの業務処理は非効率ではないかと考えており、「ベストプラクティスを組み込んだERPに業務を合わせる」というC社のコンセプトに魅了された。

 役員は外部のコンサルタントなどの協力を得て新システムの移行企画書を作成、役員会で決裁された。

 新システムの構築プロジェクトは、外資系コンサルティング会社のERPコンサルタントが主導した。ERPにあわせて既存業務を抜本的に改革する計画だったこともあり、ERPコンサルタントによる既存業務の確認作業は、現場への表面的なヒアリングにとどまった。既存システムの画面確認もほとんど行われなかった。