大成建設 技術センター 生産技術開発部長の今石 尚氏は、2017年10月11日から13日まで東京ビッグサイトで開催された「ITpro EXPO 2017」で、「VRで建機の遠隔操作はどう変わるのか」と題する基調講演を行った。

(撮影:中村宏、以下同じ)
(撮影:中村宏、以下同じ)
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 今石氏は、30年間工事現場の作業に携わり、そのうちの24年間をシールドマシンを使った工事の土木エンジニアとして過ごした。国内では東京湾アクアラインや首都圏外郭放水路などの巨大プロジェクトを手がけたという。現在は技術センターで、建設における生産技術の開発を行う。

 講演では、建設機械を使った工事現場における遠隔操作の進化を順に紹介した。遠隔から建機を操作する目的は、人が立ち入れない場所で安全に工事をすることにある。VR技術の採用もこれを実現する取り組み。この動きが本格化してきたのには、長崎・雲仙普賢岳の噴火や鹿児島県大隅での土石流災害の復旧が大きく関連しているという。

 現在でも、遠隔操作の建機が使われるのは、災害現場が多い。今石氏は、遠隔操作による無人化施工の機械として、油圧ショベル、ダンプトラック、振動ローラー/ブルドーザーなど大型の機械が紹介。また、大型機械を無線で操作するには通信技術も重要であり、ICT技術が欠かせないことを示した。

 遠隔操作による無人施工では、モニターからの情報だけでオペレーターが建機の操作を行うという。そして今石氏は、「モニターに依存していたことが課題になっていた」と説明した。

 モニターを使った遠隔操作では、通信設備や映像設備の設置に時間を要する。また、画像は遠近感がない平面情報でしかない。音や振動などを感じない状況は、実際の建機操作とまったく違う作業環境となり、操作上のネックになる。重機のオペレーターとは別にカメラを操作する人員も必要だという。

 今石氏は。「VR技術を使ったHMD(ヘッドマウントディスプレイ)の利用によって、実際に人の乗車による操作とそん色ないレベルになった」と指摘する。

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 講演のテーマである建機の操作におけるVR技術は、建機の運転席に魚眼レンズのカメラを設置して実現しているという。3次元の映像を得るために、2つのカメラを人間の目の位置を想定した20センチメートルほどの間隔に設定。この映像情報を処理してVRの視野を実現している。視野は隣のカメラが写り込まない150度ほどに設定しているとのことだ。

 HMDを使ったVR操作とそれ以前の技術を使った操作での比較についても紹介。一周60メートルのコースを移動するテストでは、俯瞰カメラを利用するシステムに比べ、オペレーターの経験に関係せず、HMDを利用したVRシステムの優位性が示された。