「人工知能(AI)はタスク単位で人間の仕事を代替する」「インターネット同様、AIは道具。人間はそれを使いこなすことを考えればいい」――。2017年10月13日、東京ビッグサイトで開催している「ITpro EXPO 2017」のパネルディスカッション「改めて問う、AIは本当に人間の職業を奪うのか?」で、3人の識者が議論を交わした。

 パネルティスカッションに登壇したのは、国立情報学研究所教授で人工知能学会会長の山田誠二氏、xenodata lab.の関洋二郎社長、野村総合研究所(NRI)未来創発センター 2030年研究所上級コンサルタントの上田恵陶奈氏の3人だ。人工知能学会会長の山田氏は研究者として、xenodata lab.の関氏はAIを活用する企業として、NRIの上田氏はシンクタンクとして、それぞれの立場からAIと人間の共存についての考え方を示した。

 人工知能学会会長の山田氏は、「AIはタスク単位で人間の仕事を代替するものの、全体の仕事から考えれば一部。人間の職業を丸ごと代替するとは考えにくい」と述べる。コンビニエンスストアの店員の仕事を例に挙げ、商品の仕入れや掃除など約30種類あるといわれているタスクの一部が代替されると説明した。また、コンピュータの導入によって自動化されたタスクと比較すると、AIによって代替されるタスクのインパクトは限定的である、とする。

国立情報学研究所教授で人工知能学会会長の山田誠二氏
国立情報学研究所教授で人工知能学会会長の山田誠二氏
(撮影:菊池一郎)
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 NRIの上田氏は、「インターネットが登場した時と同じで、AIは道具として生活の中に入ってきて、人間はそれを使いこなすだけ。人間とAIは共存する」と述べる。その上で、AIが仕事を代替した分の時間で人間は新しい仕事に取り組むため、人間の職業の内容が変わっていくとした。具体的には、人間の仕事は経営判断など「創造性」に関わる仕事や、過去に起きていないことに対する課題解決など「非定型」の仕事を挙げた。

野村総合研究所 未来創発センター 2030年研究所上級コンサルタントの上田恵陶奈氏
野村総合研究所 未来創発センター 2030年研究所上級コンサルタントの上田恵陶奈氏
(撮影:菊池一郎)
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 xenodata lab.の関氏は「付加価値の高い仕事から、AIの代替は起きる」と述べる。同社は財務分析を自動化するAIのサービスなどを証券会社やアナリスト向けに提供する。例えば、財務諸表を読み込む作業をAIで自動化すれば、投資家からまた別の要望が出てきて、新たな仕事が生まれる。人間はそうした作業に取り組むため、仕事がなくなることはないとする。

xenodata lab.の関洋二郎社長
xenodata lab.の関洋二郎社長
(撮影:菊池一郎)
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 最後に3人は、AIと付き合っていくうえで留意しなければいけない点について言及した。人工知能学会会長の山田氏は「組織としても個人としても、AIリテラシーが必要な時代になる」と述べる。個人でいえば、例えば今オフィスソフトを使いこなせない人は就職が難しいのと同様、AIを使いこなしたり必要なAIを目利きする能力が必要となってくるとする。「ある種のデバイドが生じる」(山田氏)。

 NRIの上田氏は、組織のあり方に言及。将来的な予測から、AIによる自動化を考慮に入れた最適な人材配置や業務プロセスを考える必要があるとする。xenodata lab.の関氏は、「AIを活用した新たなサービスが次々に出てくる可能性があり、その予測をしないと駆逐される」と指摘。技術やサービスを継続的にウオッチする必要があるとした。