「ディープラーニング(深層学習)は期待以上だ」「しかし期待外れなことも」。こうした激論が2017年10月12日、東京ビッグサイトで開催中の「ITpro EXPO 2017」のパネルディスカッションで交わされた。

 登壇者は工作機械大手であるオークマ専務取締役の家城淳FAシステム本部長、キユーピー生産本部の荻野武次世代技術担当次長、静岡県できゅうり農家を営む小池誠氏だ。題目は「これで納得! ユーザーが明かすディープラーニング活用の勘所と注意点」。司会はITpro/日経コンピュータ編集の田中淳シニアエディターが務めた。

 パネルディスカッションの前半、登壇者はそれぞれを自己紹介したうえで、人工知能(AI)技術の一種であるディープラーニングをどのように活用しているかについて解説した。

 オークマは1898年創業の工作機械メーカー。工作機械だけでなく制御用のコンピュータも開発している。「ハードとソフトの両方を重視して開発を進めてきた」と家城専務取締役は語る。

 同社はディープラーニングを、機械の異常を見つける用途で使っている。稼働状況のデータを収集し、異常が発生したら専用のソフトが知らせる。これまではベテランの技術者が経験やノウハウを基に注意していなければ見つけられなかった異常を発見できる。

オークマ専務取締役 FAシステム本部長の家城淳氏
オークマ専務取締役 FAシステム本部長の家城淳氏
(撮影:新関雅士)
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 食品原料の検査にディープラーニングを使っているのがキユーピーだ。加工工場で原料を検査する作業工程に活用し始めている。カメラが撮影した原料の画像データをディープラーニング技術を使ったシステムが判定。良品と不良品を見分ける。100万個のデータをシステムに学習させたという。

キユーピー 生産本部次世代技術担当次長の荻野武氏
キユーピー 生産本部次世代技術担当次長の荻野武氏
(撮影:新関雅士)
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 きゅうり農家の小池氏は組み込みエンジニアの経験を持ち、ディープラーニングを使ったシステムを自作している。きゅうりの形状をカメラで撮影し、画像データを解析して品質を選別するシステムだ。小池氏は「長さや太さなどの形状によって9段階に選別する作業を自動化したい。ベテランでなければ難しい作業だ」とした。

きゅうり農家の小池誠氏
きゅうり農家の小池誠氏
(撮影:新関雅士)
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良質な学習用データをいかに多く用意できるか

 パネルディスカッションの後半、登壇者はディープラーニングを使ったシステムやソフトの導入における苦労を話した。

 「十分な量と質の学習用データを用意するには地道な作業が必要」と指摘するのは、きゅうり農家の小池氏。自作のシステムはきゅうりを撮影した画像データ約3万6000枚を学習済み。認識の精度は約8割に達しているというが、「精度をさらに上げるには100万枚の画像データが必要になるのかもしれない」と続ける。

 異常なパターンのデータを集めるのも一筋縄ではいかない。例えばきゅうりが病気にかかっているデータである。小池氏は「農家としては、きゅうりをわざと病気にしてばかりもいられない」と話す。こうした苦労はオークマも感じていたようだ。家城専務取締役は「当社の工作機械は頻繁に壊れるわけではないので、故障時のデータを集めるのに一苦労」と説明する。

 キユーピーの荻野次長はデータを学習させてアルゴリズムを作成するうえでの難しさについて指摘する。学習を始める初期段階のニューラルネットの構造によって「学習後の結果が良かったり駄目だったり」と大きく左右されることがあった。

 パネルディスカッションの最後に、登壇者はディープラーニングの導入における期待とギャップについて振り返った。オークマの家城専務取締役は、「(開発を進めていくと)期待外れな結果が出ることもある」と話す。そのまま実用化できるわけではないので「味付けが必要だ」とした。

 キユーピーの荻野次長は原料検査の作業工程では「期待以上」と説明する一方、「全ての用途で使えるわけではない」と話す。小池氏は「ディープラーニングを使うに当たって、ゴールをどう設定するのかが重要だ」と話した。