NTTドコモは社内のデータ分析事例を全社で共有するため、「分析事例発表会」を7年以上も続けている。本社と支社をWeb会議システムで結び、多いときには約450人が参加する大イベントに成長した。

 2009年のスタート当初は分析事例発表会の存在を知る人は限られており、地味な活動だった。だが今ではドコモ社内のデータ分析には欠かせない場になっている。

 年3~4回の頻度で開催してきた分析事例発表会は、ここ1~2年で紹介される分析の手法や対象が様変わりしてきた。特に人工知能(AI)への関心が高まり、分析事例発表会でもAIによる機械学習に基づく事例が出てくるようになった。適用分野もそれまでの販売施策寄りのテーマから、最近はドコモにとっての「新領域」であるコンテンツサービス「dマーケット」内の各事業に拡大。データ分析が盛んになっている。そうした事例発表が増えている。

 今回取り上げる例も、dマーケットのサービスの1つ。料理レシピやレストランの検索サービスを手がける「dグルメ」だ。dグルメのデータ分析は多岐にわたり、しかも短期間で成果を上げているものが多い。ドコモのデータ分析専門組織に相当する「情報戦略担当」が主催する分析事例発表会に「ぜひ出て、みんなに紹介して」と声がかかる機会が増えた。分析事例発表会には毎回のように、dグルメが登場している。ここではそのなかから、3つの取り組みを詳しく紹介しよう。

AIが利用者の好みを学習し、お勧めレシピを選択

 1つめは、AIによる料理レシピのアクセス履歴の学習を、dグルメのトップページ生成に取り入れたものだ。驚くことに2017年4月から、サイトの冒頭を飾る6つのお勧め料理のレシピ枠(社内では「ひらめき枠」と呼ぶ)に、どのレシピ画像を表示するかをAIが決定している。人手を全く介さない。

「dグルメ」では、利用者にお勧めする料理レシピをAIが学習しながら判断し、画面に自動表示する。サイト冒頭の6カ所に、AIが利用者ごとにレコメンドするベスト6位までのレシピが出る
「dグルメ」では、利用者にお勧めする料理レシピをAIが学習しながら判断し、画面に自動表示する。サイト冒頭の6カ所に、AIが利用者ごとにレコメンドするベスト6位までのレシピが出る
(出所:NTTドコモ)
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 AIが各利用者のアクセス履歴や顧客情報などを学習し、数万件も登録されているレシピ画像の中から、その人に合うベスト6位までのレシピを抽出し、表示する。「AIのレコメンド機能を信頼し、自動化に踏み切った」と、dグルメを担当するライフサポートビジネス推進部食文化事業の武田直之フードテックビジネス担当主査は明かす。

 この後に紹介する2つの例も含めて、武田主査はデータ分析に非常に熱心だ。今では分析事例発表会の“常連”になっている。

dグルメを担当するライフサポートビジネス推進部食文化事業の武田直之フードテックビジネス担当主査(左)と、AIを用いたデータ分析を支援したドコモ・システムズの中村司クラウド事業部Webシステム開発部サイト開発担当主査
dグルメを担当するライフサポートビジネス推進部食文化事業の武田直之フードテックビジネス担当主査(左)と、AIを用いたデータ分析を支援したドコモ・システムズの中村司クラウド事業部Webシステム開発部サイト開発担当主査
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 dグルメは2016年11月に、AIによるレシピ画像のレコメンドの試行を始めた。するとランダムに画像を表示したときに比べて、サイトを訪問した人のクリック数が約2.8倍に跳ね上がった。料理は季節ごとに求められるレシピが変わる傾向があるので、シーズンを変えて実験を続けた。それでもAIのレコメンドはクリック数が伸びることをデータで検証できた。

 そこで2017年4月に思い切って、AIによる自動表示に切り替えた。今後は「ひらめき枠」以外にも、AIのレコメンドを導入していくことを検討している。

 dグルメが採用したAI技術は、スタートアップ企業の米Petametrics(ペタメトリクス)が開発した、機械学習によるレコメンド機能を実装する「LiftIgniter(リフトイグナイター)」。ドコモはdグルメだけでなく、ほかのdシリーズの事業にもリフトイグナイターによるレコメンドを取り入れている。

 その成果を評価してか、子会社のNTTドコモ・ベンチャーズは同社の運用ファンドを通して、ペタメトリクスに出資したことを2017年8月に発表している。