相手にうまく説明する文章を作るには、まずは読み手をしっかり分析し、その上で「適切な情報」を選ぶ必要がある。そうした下準備が、うまく説明する文章を書く作業全体の7割を占めると筆者は考えている。

 読み手の分析をして、適切な情報を選ぶには、「読み手はどういう人か」および「読み手の期待・関心ごと」を明確にすればよい。具体例を用いて、やり方を示す。

例1:プロジェクト報告

 ベンダーのPMが、携わっている顧客のプロジェクトの危機的な状況を、自社の役員(技術者出身で、最新技術にも明るい)に報告するとしよう。

読み手はどういう人か
 読み手(報告書の提出相手)は、プロジェクトを続行するか中止するかを判断する人である。PMが提案する火消し策やトラブル対処策の実施を判断する人でもある。

読み手の期待・関心ごと
 受注して仕掛かり中の案件が、にっちもさっちもいかなくなった(デスマーチに突入しかかった)ために、読み手には、「顧客にペナルティーを払ってでも中止する」ことを承認してもらいたい。

 その理由は、既に2000万円を超える予算超過が生じており、このまま続けると回収の見込みのない赤字額が膨れあがってしまうからだ。この先システムができ上がり、保守運用を任されたとしても、そこから得られる利益によって現在の赤字が補てんされる効果は、ほとんど期待できない。

 ここまで整理できていれば、文章に盛り込むべき情報は概ね決まるだろう。

 読み手が役員クラスだとすると、相手は高度な判断、つまり高い視点から「やるかやらないか」を判断する役目を担っている。そうした人に見せるものであるなら、報告書とはいえ、「どのような判断をしてほしいのか」と「その理由」を書く必要がある。ITエンジニアは自律的に働いているプロだ。だから、単に状況説明をして「状況はこうです。どうしたらいいか指示してください」というような「丸投げ」は、よほどの緊急時でもない限り避けるべきである。

読み手分析をして、「適切な情報」を選ぶ
読み手分析をして、「適切な情報」を選ぶ
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 読み手が技術者出身なら、基礎的な説明は不要。その代わりに、客観的な指標となる数字とその数字の根拠、プロジェクトを継続した場合および仕切り直しした場合の見通しについて、きっちりまとめる必要がある。

 なお、若いITエンジニアの場合、役員と会話したことがなく、その人がどういう人で、何を期待しているのか、想像がつかないこともあると思う。そうしたときは、ぜひ上司や信頼できる先輩に相談を持ち掛けてほしい。忙しそうで聞きづらいだとか、自分で考えろと言われそうで気が引けるとかで、ちゅうちょすることもあるだろう。しかし、読み手に関する知識が全くない状態では、いくら考えたところで読み手の分析などできるわけがない。

 悶々としていても、ただ時間を無駄にするだけである。思い切って、上司や先輩に話かけよう。相談を持ち掛けた相手は最初、けげんな顔をするかもしれない。しかし、上司や先輩には、後輩やチームメンバーから信頼されたいと思う感情(自己承認欲求)が働くので、自分を頼ってきた後輩に対して親身になって力を貸してくれるはずだ。