「これまで代金回収に3~4人を充てていたが全く不要になった」。飲食店に鮮魚を販売するEC(電子商取引)サイトを展開するスタートアップ企業、八面六臂(はちめんろっぴ)の松田雅也社長はこう語る。与信審査や請求書の発送、入金確認といった面倒な手続きを全て外部のFinTech企業に任せ、本業に専念できるようになった。

八面六臂がラクーンと組んで実現した飲食店向け後払い決済の仕組み。代金回収を全面委託し、経理業務を削減
八面六臂がラクーンと組んで実現した飲食店向け後払い決済の仕組み。代金回収を全面委託し、経理業務を削減
(画像出所:八面六臂)
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 八面六臂は中小の飲食店を主な取引対象とし、市場で調達した鮮魚や野菜を卸している。代金は基本的に後払い。取引先の多くは中小企業か個人経営の店舗のため、代金を支払えなくなる不払いリスクが比較的高い。確実な代金回収は頭の痛い問題だった。

 2011年に鮮魚ECの事業を始めてから5年間、八面六臂は自社で代金回収業務を手掛けていた。数百の飲食店に対して請求書を発行し、銀行口座の入金データと突き合わせていた。

 「あまりに煩雑だ」。松田社長は代金回収代行サービスの導入について信販会社と交渉したこともあるが断念した。「飲食店経営者の実印や不動産登記簿謄本が求められるなど、与信審査の手続きが複雑と分かった」(松田社長)ためだ。手間のかかる与信審査を数百の取引先にお願いするのは難しい。

Paid導入で代金回収業務を不要に

 そこで同社が目を付けたのが、FinTech企業のラクーンが提供するBtoB決済代行サービス「Paid(ペイド)」だった。

 ラクーンは店舗の不払いリスクを織り込んで手数料を設定することで、簡易な与信審査で代金の後払いを可能にする決済サービスを提供している。例えば与信審査のための店舗の存在確認は、「グーグルの(街路検索サービス)ストリートビューの写真で代用することもある」(ラクーン)。

 取引先は八面六臂のWebサイトを通じてラクーンに与信審査を申請でき、早ければ即日、遅くとも3営業日以内に結果が出る。審査が通った取引先については、八面六臂が自社のECサイトからWeb API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)経由でラクーンに取引データを送信するだけで、ラクーンが請求書発行など代金回収の業務を代行する。

 八面六臂は決済代行サービスの導入を機に、仕入れなど本業以外の業務を外部に委託する業務改革を断行した。

 2016年4月にはPaidを導入するに当たり、全取引をPaid経由に切り替えた。一般にはオプションの決済方式として代行サービスを導入するところだが、八面六臂は効率化を狙い、思い切って決済方式をPaidに一本化。代金回収の業務も全てPaidに委託した。

 外部委託に当たって八面六臂は、Paidが一定額以上を与信できない飲食店の業務も委託できるよう、ラクーンと交渉した。具体的には八面六臂が5年間にわたり蓄積した取引実績に基づき、同社が信用を供与する形にした。新規に開店したばかりで貸借対照表や損益計算書がない店舗であっても、「店長は先月まで優良店で料理長をしていて腕は確か。八面六臂と2年間の取り引きがあった」といった独自情報を基に、八面六臂が不払いリスクを負った。

 1000件ほどの取引先に対する請求書発行や代金回収の業務をPaidに委託。これまでパート従業員など3~4人が担っていた代金回収業務が不要になった。「5年分の流通データと、優良店を見極めるノウハウがあるからこそできた」と松田社長は胸を張る。

 松田社長はPaid導入を機に、20人ほどいた訪問営業の要員も大幅に減らした。店舗の存在確認作業などをラクーンに任せることができるようになったからだ。以前は新規の取引を始める際には、八面六臂の営業担当者が実店舗を訪問して店舗の存在を確かめていた。Paidの導入と物流の業務改革を機に、新たに取引を受け付ける窓口をECサイトに絞った。

 2016年の段階で同社の従業員は50人ほど。この人数で物流から営業、経理を含めた全業務をこなしていた。現在はビジネスモデルの改良などにより、従業員数をわずか8人まで減らしたが、ラクーンなどへの外部委託を進めた結果、問題なく業務をこなせている。「無駄のない筋肉質の組織にできた」(松田社長)。