2カ月以上かかっていた取引先への入金をわずか2日に。従来の手形決済などと比べて革命的な早さで支払いを可能にするサービスが広がっている。

 「取引先に良い契約条件を提示でき、支払い業務もシンプルになる。使わない理由がない」。アパートの賃貸管理などを手掛けるレオパレス21の芦村健人戦略企画部長は満足げに語る。

 2017年9月下旬、レオパレス21は建設会社や建材会社といった取引先への支払いに、金融スタートアップ企業のTranzax(トランザックス)が提供する電子記録債権サービス「サプライチェーンファイナンス」を初めて適用した。取引先はレオパレス21がアパートの完成を確認(検収)してから最短2日で代金を受け取れる。

レオパレス21が導入した電子記録債権サービスの活用例。2020年までの建設ラッシュに備え、支払い条件を改善
レオパレス21が導入した電子記録債権サービスの活用例。2020年までの建設ラッシュに備え、支払い条件を改善
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 レオパレス21はこれまで検収後70日以内に代金を支払ってきた。「一般的な業界慣習よりは早い」(芦村氏)とはいえ、アパート建設にかかる人件費や資材費を負担している建設会社としては、1日でも早く代金を受け取りたいところ。レオパレス21は同サービスを採用することで「取引先の資金繰りを支援できた」(芦村氏)。

レオパレス21が管理するアパート
レオパレス21が管理するアパート
(写真提供:レオパレス21)
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銀行より低利で資金を融資

 Tranzaxが電子記録債権サービスを始めたのは2016年7月のこと。Tranzax子会社のDensai(でんさい)サービス(現・Tranzax電子債権)が同月に金融庁から「電子債権記録機関」の指定を受けたことで実現した。銀行系列でないスタートアップ企業が同機関の指定を受けたのは初となる。

 電子記録債権は、紙の手形より扱いやすい決済手段として2008年に国が創設した新型の金銭債権である。企業は同機関が管理するデータベースに手形や売掛金の内容を記録し、インターネット上で債権を売買できる。他の情報システムと連携し、債権に基づく自動入金やEDI(電子データ交換)との決済の連動など、新たなFinTechサービスを生み出しやすくなる。

 Tranzaxのサプライチェーンファイナンスは、レオパレス21のような大手企業が発行する電子記録債権の信用力を基に、取引先の中小企業に年1%前後の低金利で資金を融資するサービスだ。取引先の中小企業は支払期日までの金利を支払うことで、実質的には代金を早く受け取れる。

 銀行やそのグループ企業も電子記録債権サービスを提供していたが、金利は2~3%と高めに設定するのが一般的だった。中小企業の信用力を基に金利を決める銀行の商慣習に従っていたからだ。この商慣習がネックとなり、「中小企業はゼロ金利の恩恵を受けることができていない」点にTranzaxの小倉隆志社長は目を付け、低利で融資するサービスを設計した。

 サプライチェーンファイナンスによる代金支払いの具体的な手続きは次の通りだ。レオパレス21は建設会社が納品したアパートを検収した後、「レオパレス21は70日以内に工事代金○○円を支払う」といった内容の電子記録債権を、建設会社が保有する債権としてTranzax電子債権に登録する。

 続いてTranzaxが設立した特別目的会社(SPC)が電子記録債権を建設会社から買い取る。これにより建設会社は最短2日で代金を受け取れる。金利が年1%、支払期日を70日とした場合、建設会社は100万円の債権を売却して約99万8000円の現金を受け取れる。

 その後はレオパレス21がSPCへ70日以内に入金すれば、SPCが買い取った債権は消滅する。レオパレス21のキャッシュフローへの悪影響はない。