積水ハウスの働き方改革は、全社員に配布したiPadまたはiPhoneと、住宅1軒1軒の情報を全社で一元管理するために構築した「邸情報データベース」に支えられている。

 iPadだけ一斉導入しても、仕事の効率化は非常に限定的なものになる。積水ハウスは最新の端末を配布する前に、会社の中心に邸情報データベースを据え、そこに積水ハウスにとって最も大切な住宅情報(コア情報)を格納して一元管理を始めた。そのうえで業務フローを抜本的に見直し、邸情報データベースを中核とする新しい業務プロセスに従って、iPadに搭載した様々な自社アプリを利用するようになったから、劇的に働き方を変えられたのだ。

 今回は、積水ハウスの新しい働き方の実例を紹介していこう。読者のみなさんは「自分が家を建てることになった」ときと、「我が家が天災で被害を受けた」ときの2つの大きな出来事を想像しながら、読み進めてみてほしい。

 家は人生最大の買い物──。昔からそう言われている。建て売りではなく、注文住宅ともなれば価格はさらに上がるが、その分、顧客の“夢”も大きく膨らむ。新居にはあれもこれも取り入れたくなるものだが、結局は予算オーバー。一部は諦め、こだわりたい部分は残すといった選択を、顧客は何度も迫られる。

 誰も人生最大の買い物で失敗したくない。予算の許す範囲で、より良い素材を使い、納得がいく家を建てたいものだ。顧客は家作りの商談中、営業担当者や設計者と何度も打ち合わせを繰り返し、使用する部材を一つひとつ選んでいく。

 例えば、家の見た目を決定づける重要な部材である外壁選び。このとき、積水ハウスの営業担当者はiPadを取り出し、自社開発した「外壁検索アプリ」を立ち上げる。すると数え切れないほどの外壁が、画面いっぱいに表示される。

営業担当者がiPadで利用する「外壁検索アプリ」。顧客が選択した外壁と同じ部材を使う住宅の「ご近所検索」機能が付いている
営業担当者がiPadで利用する「外壁検索アプリ」。顧客が選択した外壁と同じ部材を使う住宅の「ご近所検索」機能が付いている
(出所:積水ハウス)
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 住宅の外観は、営業担当者が顧客に最も分かりやすく自社商品をアピールできるものの1つだ。外壁検索アプリは営業担当者からすぐに重宝された。顧客はiPadに映る外壁のなかから、自分のイメージに近いものに目星を付ける。

 外壁は素材の性能や色合いなどの違いから、様々な種類がある。顧客はiPadの画面を見て、外壁の候補を幾つか絞り込んだら、その後は積水ハウスのショールームに出かけて実物の外壁サンプルを自分の目や手触りで確認したり、外壁サンプルを届けてもらったりして、どれにするかを最終決定するのが、これまでのよくある流れだった。

 しかし今はその前に、営業担当者は顧客に「ある提案」ができるようになった。

 「ここの近所に、お客様が選択した外壁と同じものを使っている家がありますね。一緒に見に行きませんか」

 こう促せるのだ。近所の家を見に行くのが億劫なら、iPadでその家の外観写真を見ることもできる。