ステークホルダー(利害関係者)ごとにプロジェクトへの関心や思惑がずれていると、ステークホルダー間で対立が起こりやすい。対立が激化すれば、プロジェクトは空中分解してしまう。プロジェクトを率いるマネジャーやリーダーは、各ステークホルダーに対して、本来のゴールを意識してもらうよう働きかける必要がある。

 関心や思惑のズレが早い段階で分かれば、先手を打って問題化させずに済む。難しいのはそれをどうやるかだ。そこで、TISの坂本一敬氏(エネルギービジネス事業部 エネルギービジネス第1部エキスパート)の工夫が参考になる。

 坂本氏は2015年から2016年にかけて、家庭向け電力事業の新規参入業者向けシステムを開発するプロジェクトマネジャーを務めた。2016年4月の自由化と同時にビジネスを開始するために、同年3月のシステム稼働が絶対条件だった。

 期間が限られているうえ、2015年5月に要件定義を開始した時点では、電力自由化の旗振り役である公共機関側のシステムと接続する仕様の確定が公共機関側の都合で遅れていた。このような状況では、ステークホルダー間で足並みがそろわなければプロジェクトの成功はおぼつかない。

 足並みをそろえるうえで特に注意が必要なステークホルダーは、ユーザー企業A社の取引先だった。A社は卸売りの立場で、各家庭への営業は取引先が担う。このため取引先のほうが発言力を強めやすい。

 中でも大口取引先のX社は、A社にとって重要なパートナー。X社から独自の要求が出れば、A社の利用部門は断り切れなくなる。

 X社が独自の要求を出す確率も高かった。X社は別の事業と電力小売り事業とのセット売りを検討しており、別の事業用システムと連携しやすい形のデータ出力を期待していた。しかしX社の要求を受け入れれば、仕様変更を迫られるなど足並みが乱れる。