真のキーパーソンをどうやって引っ張り出すか――。何らかのプロジェクトに参加したことがある読者なら、こんな悩みを一度は抱いたはずだ。プロジェクトに影響を与えるステークホルダー(利害関係者)は多種多様である。キーパーソンだと思っていたら違った、そもそもプロジェクトの序盤ではキーパーソンが参加していなかった、なんてことはよくある話だろう。

 ところが真のキーパーソンを引っ張り出せないと、プロジェクトはほぼ失敗すると言われている。いわゆるちゃぶ台返しはもちろん、仮にプロジェクトが完了しても使い物にならない最終成果物が出来上がる可能性が高まるからだ。

 以下では、真のキーパーソンを引っ張り出す裏の手ともいえる現場の事例を紹介しよう。

参加したステークホルダーは1人だけ

 プロジェクトの序盤でキーパーソンが参加していない。日立ソリューションズのビジネスイノベーション事業部ポイント・決済ソリューション部 稲垣勝利担当部長も同じ状況に直面した。2014年から2016年にかけて担当した、金融機関のオープン化の案件である。

 プロジェクトの開始当初、金融機関からのプロジェクト参加者は1人だけだった。佳境を迎えた別のプロジェクトに主要なステークホルダーがかかりきりだったのだ。キーパーソンどころかステークホルダーが誰なのかさっぱり分からない。

 そこで稲垣氏は、要件定義と並行して「テスト/移行計画」を立てる作戦に出た。多くの場合、見通しの悪い序盤の段階でテスト計画や移行計画を立てることはない。それを稲垣氏は、ステークホルダーを引っ張り出すためにあえて実施したのである。