TOTOがIT投資を積極化している。直近の数年間に人事システムや保守業務向けの基幹システムを次々と再構築し、さらに本業である衛生陶器のIT化にも乗り出している。各種センサーおよびIoT(インターネット・オブ・シングズ)デバイスを搭載したトイレを開発し、健康管理サービスを提供する実証実験に2017年12月から取り組むと表明した。

 ITプロジェクトに次々と取り組み、しかも同社は着実に稼働させてきた。それを可能にしているのは、プロジェクトのリーダーが様々なステークホルダー(利害関係者)の協力を取り付ける「巻き込む力」を発揮しているからだ。

 これを象徴する事例の1つが、2016年に再構築した人事システムのプロジェクトだ。ゼロから自前で構築した従来の人事システムを、ワークスアプリケーションズのパッケージソフト「COMPANY」へと切り替えた。人事、給与、旅費精算といった主要機能を2015年9月に、人事考課関連の機能を翌年3月に移行した。

 TOTOにとって人事システムの刷新は1997年以来のことで、実に19年ぶりである。パッケージを利用したとはいえ、難易度は決して低くはなかった。TOTOグループ28社、IT企業7社がかかわり、連携するシステムの数は130にも及んだ。そのうえ、グループ各社の人事部門はグループ28社分のシステムの同時刷新を、経営層は納期と予算の厳守をそれぞれ求めた。

 プロジェクトの道は平坦ではなかったが、最終的には品質、予算、納期を順守した。プロジェクトのリーダーを務めた、開発プロジェクト推進部企画主幹コーポレート推進グループの福田 武グループリーダーが要所要所でステークホルダーと掛け合い、的確に巻き込んだことが実を結んだ。

いきなり壁にぶつかる

 プロジェクトは2013年7月に本格的に始まった。事前に選定したパッケージソフトの機能を確認しながら、福田グループリーダーらプロジェクトチームは要件定義を開始した。

 ところが、いきなり壁にぶつかった。当初、福田グループリーダーが思い描いていたようにはステークホルダーの協力を得られなかった。保守切れが迫っているという明確な課題を認識する福田グループリーダーと、主要なユーザーである人事部門では、意識に隔たりがあったという。要は何のための再構築なのかが、人事部門には分かりにくかった。

 従来の人事システムはゼロから開発したことを最大限に生かし、かゆいところに手が届くレベルまで作り込んでいた。例えば各部署の従業員が外部業者に昼食用の弁当を発注するといった機能まで備えていた。

 このような状況だったため、「要件定義への協力」を福田グループリーダーが要請しても、人事部門からはなかなか意見が出てこなかった。プロジェクトオーナーである人事部門のトップでさえ、「これまでのシステムと同様の機能をパッケージで再現してくれれば十分」という反応だったという。

 しかし、検討が進むと単純な現行踏襲は難しいと判明した。採用したパッケージは大部分の機能を満たしていたものの、TOTOグループの人事制度に合わせるための開発が必要になる箇所が多く、開発コストが予算を大幅に超過してしまうのだ。

 予算内に収まるように機能を絞り込もうと、福田グループリーダーは人事部門に掛け合った。しかし、人事部門の担当者はどれを絞り込んでよいのか判断できなかった。結局、「この機能も必要だと思いますという反応ばかりだった」と福田グループリーダーは当時を振り返る。

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 十分に絞り込めないまま、2014年3月に開発の計画案を経営会議に諮らざるを得なくなった。案の定、予算を大きく超過した計画案は却下される。同年4~5月にかけ、計画案を練り直すことになった。