IoT(インターネット・オブ・シングズ)プラットフォームである「Lumada」を海外展開するためにグループ会社を再編し、2017年9月に新会社「日立ヴァンタラ」を設立した日立製作所。変えるのは組織だけではない。営業体制や社員のマインドセットも一新する。カギを握るのは「協創」の横展開だ。

 日立ヴァンタラはストレージの販売で知られた米IT子会社の日立データシステムズ(HDS)と、HDSが2015年に買収したBI(ビジネスインテリジェンス)ツールベンダーの米Pentaho、米国にあったLumadaの開発チームである「Hitachi Insight Group」を統合した新会社だ。

 HDSは1989年に日立と米EDS(Electronic Data Systems、2008年に当時の米Hewlett-Packardが買収)が合弁で設立した。社名にデータシステムズとあるのはEDSの正式名称に由来している。そんな歴史ある社名を捨てたのは、「データを活用することで顧客のアウトカム(成果)を改善する」(日立の東原敏昭社長兼CEO=最高経営責任者)企業を目指すうえで、HDSのブランドイメージが支障になると判断したためだ。

 「HDSはITインフラストラクチャーの販売会社というイメージが強く、HDSの営業担当者が会えるのも顧客の情報システム部門や調達部門に限られていた。今後は顧客のビジネス部門にリーチする必要がある。会社のブランドを変えなくては、会える人に会えないと考えた」。日立のサービス&プラットフォームビジネスユニットCEOとしてIT事業の全てを統括する小島啓二専務はこう説明する(写真1)。

写真1●日立製作所の小島啓二専務
写真1●日立製作所の小島啓二専務
[画像のクリックで拡大表示]

顧客との継続的な関係性を築く

 変えるのは組織構造や社名だけではない。営業体制や社員のマインドセットも変革する。日立ヴァンタラの大槻隆一CEOは「HDSにおけるセールスとはストレージの販売であり、サービスとは壊れたストレージの修理だった。こうした体制を改め、顧客のアウトカムを最大化するサービスを届けられるようにする」と意気込む(写真2)。

写真2●日立ヴァンタラの大槻隆一CEO
写真2●日立ヴァンタラの大槻隆一CEO
[画像のクリックで拡大表示]

 顧客との関係性も大きく変える必要がある。「これまではハードウエアを顧客に納入したら、営業担当者が次に顧客を訪問するのは数年後だった。これからは『顧客のアウトカムを最大化する』『顧客によるプラットフォームのコンサンプション(使用)を最大化する』という視点で、毎日でも顧客と話をして、顧客と価値を共有していかなければならない」(大槻CEO)。

 具体的な取り組みとして、日立が2013年ごろから取り組んできた「協創」のアプローチを全世界的に展開する。協創はイノベーションを起こす方法論である「デザイン思考」や現場観察手法の「エスノグラフィ」などを取り入れたビジネス設計のアプローチだ。

試作による検証を何度も繰り返す

 顧客のビジネス担当者と日立の研究者やデータサイエンティストなどが「ワークショップ」を実施して、顧客の抱えるビジネス課題を突き止め、解決手段を考える。解決策を実装したシステムを開発する際には、プロトタイプ(試作)による検証と、プロトタイプの改善を何度も繰り返す()。

図●日立製作所の協創(Co-Creation)アプローチの手順
図●日立製作所の協創(Co-Creation)アプローチの手順
[画像のクリックで拡大表示]