5年ぶりの改訂となったPMBOK(Project Management Body Of Knowledge)ガイド第6版。従来にない大きな改訂を、プロジェクトマネジメントの有識者はどう受け止めているのか。大手・中堅のIT企業、ユーザー企業、大学関係者など、4人の有識者に聞いた。
「ベネフィット」が前面に、ずっと疑問だった点が解消
関 哲朗氏 プロジェクトマネジメント学会 会長、文教大学 情報学部 教授
従来のPMBOKガイドでずっと疑問だったのが、プロジェクトの目的や目標はどこからどのように決まるのかという点だ。立ち上げプロセスに発行する「プロジェクト憲章」にプロジェクトの目的は書いてある。だが、そのプロジェクト憲章を発行するためのインプットは何かが明確でなかった。
今回のPMBOKガイド第6版は、この疑問に対する回答として「ベネフィット(便益)」の概念を提示した。さらに「ビジネスケース」と「ベネフィットマネジメント計画書」という文書を定義し、これらがプロジェクト憲章のインプットになると位置付けた。
PMBOKガイド第6版がベネフィットという考え方を提示した意義は大きい。言葉が前面に出ることで議論が生まれ、研究が進むからだ。
実際、第5版でステークホルダーマネジメントがPMBOKガイドの知識エリアに昇格すると、その後は学会でもステールホルダーマネジメントに関する論文の投稿が増えた。ベネフィットに関して同様の動きが進むことを期待している。
ただし、ベネフィットを獲得する手続きがアジャイルと一緒になって記述されている点に疑問を感じる。別にアジャイル型のプロジェクトでなくてもベネフィットを獲得できるはずだ。(談)
第5版までは「守りのPM」、第6版は「攻めのPM」
初田 賢司氏 日立製作所 初田賢司 システム&サービスビジネス統括本部プリンシパル
これまでのPMBOKガイドは、しっかりと計画を立て、無駄なコストを抑えてプロジェクトをマネジメントするためのヒントとして重宝してきた。このようなプロジェクトマネジメントを「守りのPM」とすれば、今回の第6版は「攻めのPM」に足を踏み入れたと感じる。
攻めのPMとは、新しいビジネスやイノベーションを目指したプロジェクトのマネジメントのこと。IoT(インターネット・オブ・シングズ)を活用して自社の事業を刷新する案件などが典型的だ。日本でもこうした案件が増えている。
新しいビジネスやイノベーションを目指す案件の場合、プロジェクトのコストを抑えてモノを作ったからといって、本来の目的を達成できるとは限らない。むしろ、プロジェクトを立ち上げるきっかけとなった企業の戦略やビジネスの目的を理解しておくことが大切だ。戦略やビジネスの目的を踏まえ、自身が責任を持つプロジェクトではどのように貢献するかを考えてマネジメントすることが、プロジェクトマネジャーに求められる。
その点、PMBOKガイド第6版は「ベネフィットマネジメント計画書」を新たに加えるなど、企業の戦略やビジネスの目的をプロジェクトマネジャーが理解する指針を提示してくれた。攻めのPMのヒントになりそうだ。次の版では、攻めのPMを実践するためのフレームワークがさらに充実してほしい。(談)