「大規模システムをAmazon Web Services(AWS)から乗り換えるケースが急増している」。クラウド専業ベンダーであるクラウドエースの吉積礼敏社長はこう話す。移行先の本命は米グーグルのクラウド「Google Cloud Platform(GCP)」。なかでも吉積社長が特に増えていると指摘するのは、アプリケーション開発・運用環境のPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)「Google App Engine(GAE)」だ。運用作業の自動化機能に定評があり、大規模にシステムを運用する企業が改めて注目しているという。クラウドが普及したことで企業が管理するシステムの数が増え、運用負荷が無視できなくなっていると吉積氏は指摘する。

 任天堂、DeNA、メルカリはGCPを導入した。任天堂とDeNAが共同で開発したスマートフォン向けゲーム「スーパーマリオラン」はゲーム機能をAWSで開発。課金やユーザー管理などの基盤システムは従来のオンプレミスに代わりGCPを選んだ。150の国と地域で同時配信という膨大なトラフィックとその変化に合わせた拡張作業をPaaSの「オートスケール」機能で自動化した。メルカリはAWSで運用していた北米で新規開発の基盤にGCPを採用。2017年に事業展開を始めた英国では全システムをGCP上に構築した。グループ会社が開発する新事業には全てGAEを採用し、運用担当のエンジニアをゼロにした。

 グーグルは独自機能を企業にアピールし、クラウド分野で首位を独走するAWSを猛追する。圧倒的シェアで盤石と思われるAWSだが機能面では他社に先行を許す部分もある。巻き返しに向けてイベント駆動型コード実行サービス「AWS Lambda」や、オブジェクトストレージ「Amazon S3」に保存したデータを検索・加工・出力できる「AmazonAthena」など、使い勝手のいい新サービスを相次いで発表している。

図●新システムで採用したクラウドの国内シェア
図●新システムで採用したクラウドの国内シェア
王者AWSに迫る新興勢力
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 「5年あればナンバーワンになれる」。グーグルでクラウド事業を統括するダイアン・グリーン シニア バイス プレジデントは自信満々だ。同社のクラウドの世界シェアは米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の57%、米マイクロソフトの34%に続き15%で3位(米ライトスケール調べ、2017年)に留まるが、システムの新規導入や刷新時に選ばれたクラウド基盤の国内調査では2位につける(ノークリサーチ調べ、2017年)。マイクロソフトを上回り、シェア王者のAWSに迫る。

 大手3社のすき間市場を狙い撃ちする形で欧州SAP製のアプリケーションに特化した米バーチャストリームのIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)や、ベアメタルサーバーのIaaSに特化した米パケット・ホストのサービスなど、特定の強みを持つクラウドも顧客を増やしている。クラウドの使い方が広がり、シェア争いと開発競争は激しさを増している。